被害者続出でも国は推進の異常! 成年後見制度は 「国家によるカツアゲ」|長谷川学

被害者続出でも国は推進の異常! 成年後見制度は 「国家によるカツアゲ」|長谷川学

なぜ国連勧告を無視し続けてまで政府は成年後見制度を促進するのか? なぜ新聞やテレビは被害者が続出しているにも拘わらず報じないのか? いまも平然と行われ続けている弱者を喰いモノにする「国家によるカツアゲ」。その実態を告発する。


立ち退き問題は、22年5月に再びクローズアップする。田中さん宅の土地、建物を購入した都内の不動産会社が正式に立ち退きを求めてきたのだ。  

3カ月前にも立ち退きを求められていた田中さんは「ここ(自宅)でずっと暮らしていきたい」とK氏に相談。K氏は「それを相手側に伝えていただければ結構」とファックスで通信。妥当な対応をした。  

不動産会社は、建物を取り壊して新しくマンションを建設する計画を立てていた。同社は田中さんに一時的な転居を要請。立ち退きは任意だが、田中さんが転居に応じないときは裁判を起こす可能性も伝えられた。  

立ち退き問題を正式に受任したK氏は訴訟回避策として、「立ち退き料を受け取り、一時転居し、その後、再入居する方向」を田中さんに提案した。  

だが7月に入ると、K氏が奇妙な動きを始めた。7月15日、K氏は一時転居のマンション探しに関して、「私のほうでも、不動産業者にあたってみます」 「私がいつもお世話になっている不動産業者と2名でご自宅に伺いたい」とファックス。  

7月25日には、「ここでずっと暮らしたい」という田中さんの希望と異なり、①3000万円の立ち退き料と引き換えに、戻ってこない前提で他にマンションを購入する②立ち退き料が少ない場合は一時転居後に再入居する、という二つの方向をファックスで提示。  

これ以降、戻ってこない方向に力点を置いた調整が進められることになった。  

そのうえで7月26日、K氏は①の新たに購入するマンションについて「私のほうで探してみたい」、翌日も「私のほうで、不動産業者(10年以上付き合いのある、大変信頼できる業者です)にあたって、物件を探してみたい」とファックス。  

7月29日、K氏は自分が顧問を務める不動産会社が仲介するマンションに田中さんを連れて行き、内見させた。K氏は、自分が仲介業者の顧問であることを田中さんに伝えなかった。  

さらに8月1日、K氏は「このままですと、物件を他の方に買われてしまい……」と、購入を急がせるファックスを送信。8月8日のファックスでも「物件が売れてしまわないうちに」と急かし、翌日、以下のファックスを送り付けた。

「先日見ていただいた物件ですが、驚いたことに、田中様の他にも2名の検討者がおり、2名とも内見を済ませてかなり前向きに検討していたそうなのですが、Iさん(筆者注・K氏が顧問の不動産会社の社長)に大至急で交渉してもらい、田中様を優先してもらえることになりました。本当に良かったです」 「バタバタして大変恐縮なのですが、売主としては、8月21日(日)に、売主の会社で契約したいとのことでした。売主の会社は西新宿にあるのですが、Iさんが車で田中様をお連れします」  

K氏の一連の言動は、田中さんの代理人というより、顧問先の不動産会社の営業マンを彷彿させる。

無権代理の可能性、約600万の弁護士報酬

田中さんの「ここで暮らしたい」という思いに反し、マンションを購入して戻ってこない方向での代理人同士の交渉がどんどん進んだ。当時89歳で身寄りも相談相手もなかった田中さんには、もはや流れに抗う術はなかった。  

9月16日、不動産会社の代理人とK氏の間で、①現在、田中さんが住んでいる建物について田中さん姉妹と地主との賃貸借契約を解約する②田中さんに立ち退き料として約3000万円を払い、田中さんが退去する内容の和解調書が成立した。  

だが、この賃貸借契約の解約のやり方には疑問点があった。賃貸借契約は田中さんだけでなく、姉(97)も当事者だったため、解約には姉の同意が必要だった。そこでK氏は、姉の代わりに妹の田中さんに委任状に署名(代筆)、捺印してもらって姉の訴訟代理人に就任。姉妹の代理人として和解調書を作成した。  

ところが、姉を診察した医師の診断書によると、姉は16年に施設入所した時点で、アルツハイマー型認知症により明瞭な意思疎通が困難だった。K氏が姉の代理人に就任したのは22年8月だが、診断書によると、姉はすでに19年の時点で「右中大脳動脈領域の広範な脳梗塞を発症。以降発語はまったくなく、意思疎通は完全不可」だった。これは「支援を受けても、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない」状態、つまり判断能力がまったくない状態であることを示している。

「判断能力がない人の代理人になるには後見人になる必要があります。具体的には、本人の親族や市区町村長が家裁に後見人をつける申し立てを行い、家裁が必要と認めると後見人がつけられる。しかし、K氏は姉の後見人ではありません。本人を代理する権限がない者が代理人としてふるまうことを無権代理と言います。  

K氏は、K氏に依頼された田中さんが、姉の気持ちを忖度して代筆、捺印したのだから問題ないと主張するでしょうが、K氏の行為は無権代理の可能性があると思います」(前出、宮内氏)  

最終的に地主は、3150万円の立ち退き料を田中さんに支払った。立ち退き料の報酬と着手金の追加費用として田中さんはK氏に516万円を支払い、さらにK氏が顧問を務める不動産業者の仲介マンションの購入のために3280万円を支払った。先に支払った着手金や任意後見、遺言書の作成料などを含めると、田中さんがK氏に払った報酬は約600万円にのぼる。  

田中さんは「K氏は同じマンションの別部屋を一つ見せてくれただけで、他の業者の仲介物件や自立型のシニア住宅は一つも見せてくれませんでした。弁護士同士のやりとりで立ち退き期限が決まり、煽られるような形でマンションを買いました」と悔しがる。  

購入した部屋(約46㎡)は築51年で借地権付き。女性の一人暮らしなのにマンションに防犯カメラはなく、ポストに鍵がかからない。「足が悪いのに、家のなかの廊下や風呂場などに段差があり、引っ越してきた当初は、立て付けが悪くて窓も開きませんでした」と田中さんは嘆く。

「年寄りなのでやりたい放題」家族写真まで勝手に処分

Getty logo

(写真はイメージです)

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