国家が弱者の資産を弁護士、司法書士らに分配する
他の先進国と日本の法定後見の決定的な違いは、他の先進国では親族後見人が基本になっているのに対し、日本では親族が滅多に後見人になれず、後見人の8割以上を弁護士や司法書士らが占めていることだ。
親族後見人は無報酬が基本だが、本人にとって赤の他人の弁護士、司法書士が後見人になると、本人は毎年36万円から84万円もの報酬を死ぬまで払わされる。
無駄なお金を払わされる本人と家族からすると、日本の制度は、認知症の人などの社会的弱者を救済するという美名のもとに、国家が弱者の資産を間接的に管理して法曹界仲間の弁護士、司法書士らに報酬の名目で分配するシステムでしかない。
民法は、後見人に対し、本人の意思を尊重しつつ、健康状態などに配慮して医療、介護の契約を結ぶことを義務付けている。だが弁護士、司法書士後見人は、本人を施設に入れて、あとは施設と家族任せにしていることが多い。仕事といっても、本人の通帳とキャッシュカードを事務所の金庫に入れて管理する程度なのが実態で、弁護士のなかには、後見人をしていた期間中に本人と一度も面会しなかったツワモノもいる。
法定後見では、本人と家族には後見人を選ぶ権利がなく、家裁がつけた後見人は、何もしなくても交代させられることはない。本人や家族が家裁に「後見人を変えてほしい」と申し立てても、家裁は聞く耳を持たない。しかも家裁と弁護士後見人らは、後見人の報酬額を本人と家族に教えず領収書も発行しないのだ。いったい、いつの時代の制度なのか。
人権意識に欠けた岸田政権と社会福祉協議会
現状の法定後見は、家裁が後見人に選任した弁護士らに仕事を丸投げし、トラブルが起きても「お上」の権力で不満を押し潰している。こうした実態から、私は日本の法定後見は「国家によるカツアゲ」だと思っている。
「後見による被害を受けた米国の歌姫、ブリトニー・スピアーズの告発により、カリフォルニア州では後見制度の法改正を行い、本人が後見人を選べるようにし、後見人が本人の最善の利益のために行動していない場合は、最高5万ドルの罰金が科せられるようになりました。日本政府も猛省して見習うべきです」
後見トラブルに詳しい一般社団法人「後見の杜」の宮内康二代表はそう語るが、政府に従順な新聞、テレビはこうした実態を調べようとせず、報道もしない。それを良いことに、岸田政権は国連勧告のあとも、成年後見制度を推進する方針を変えていない。
政府が人権意識に欠けているのだから、政府が「成年後見制度の中核機関」と位置付ける末端の市区町村や「社会福祉協議会」(社協)も体質は同じ。社協は、後見や福祉を市民とつなぐ事実上の第三セクターだ。
宮内氏が語る。
「中核機関の職員の後見に関する知識は非常に浅い。彼らは、後見で儲けている弁護士や司法書士を講師に招いて勉強するので、“良い話”しか聞かされない。ほとんどの自治体や社協の職員は本気で“成年後見制度は良い制度だ”と信じ込んでいて、法定後見が人権侵害を引き起こしていることをまったく自覚していません」
その結果、自治体と社協の職員は、認知症ではない普通のお年寄りにまで成年後見制度を利用させてトラブルを拡散させている。典型的な事例を紹介しよう。