嘘がまかり通る“中村王国”と異常県政
「権力は使い方を誤ると恐ろしい。これは知事・市長として権力を握った実体験から、痛切に感じる。国民の自由や権利を簡単に奪うことができるし、権力者が自分の意図でいくらでも社会を動かすことができてしまう」
大阪府知事・大阪市長を務めた橋下徹氏はその著書『政権奪取論』のなかで、知事、市長の権力の大きさについて、そう書いている。
橋下氏の言葉は、そのまま中村時広愛媛県知事に当てはまる。
元衆院議員の中村氏は松山市長時代の2010年、知事選に出馬。市長の後継に指名した元南海放送アナウンサーの野志克仁氏とダブル選挙で当選し、その後、二度のダブル選を制して“中村王国”を築き上げた。
中村氏は松山市長時代、自民党市議団に手を突っ込み、最大会派・松山維新の会を作った。折からの橋下大阪維新ブームに便乗した動きだった。橋下、中村両氏はお互いの選挙を応援し合う仲だったが、維新ブームの退潮につれて疎遠になり、2018年、松山維新の会は「みらい松山」に名称を変更した。
中村氏は2019年11月、自民公明両党の他、立憲民主、国民民主、社民各党の県組織の推薦や支持を受けて知事三選を果たし、県内ではほぼ敵なしの状態。四国最大の都市で、愛媛県庁所在地でもある松山市も、中村氏の“傀儡”とされる野志氏を通じて、事実上、中村氏が牛耳っているといわれている。
それを裏付ける出来事を一つ挙げる。中村氏の知事一期目の11年6月のことだ。松山市の公営企業局トップの公営企業管理者が市議会で、「引き続き管理者としての職を続けるようにとのご下命を知事からいただいた」と発言したのだ。市議から「知事と言った?」と指摘された管理者は慌てて「野志市長」と言い直したが、この発言は権力の実相を雄弁に物語っていた。
県庁と四国最大の中核市を掌握した中村氏は、県議会と松山市議会をも抱き込んでいる。県議会は共産党など一部を除き、オール与党体制。松山市議会の第一党もみらい松山が占めており、自民党市議団も「中村知事の言いなり」(松山市議)という。
中村王国の愛媛で中村氏を表立って批判することは極めて難しく、メディアもその例外ではない。現に私が本誌(告発レポート第1弾・第2弾)で追及してきた、いわゆる「レッグ問題」について、中村氏が知事会見で八百を並べ立てても、どの社も追及しなかった。
責任はだれの目にも明らか
だが、当然のことながら、どんな権力者にも守らねばならないルールがある。先の橋下氏はこう書いている。
「ルールのない切磋琢磨は、単なる野蛮な弱肉強食になってしまう。ゆえに適切な切磋琢磨にする公平・公正なルールが必要になる」
ルールの最たるものが法律だが、少なくとも、私が追及しているレッグ問題に関しては、中村氏は法律を守っているとは言えない。
レッグ問題の本質は極めてシンプルだ。
松山市の産業廃棄物処理業者(株)レッグは、埋め立て超過などの違反を繰り返す悪質な業者だった。反社会的勢力との関係も取り沙汰されてきた。
当時の中村市長は廃棄物処理法に則り、レッグに免許停止などの行政処分を毅然として行うべきだったが、それを怠り、任意の指導をダラダラと13回も重ねた。
やがて、レッグ処理場はほぼ満杯になった。やむなくレッグは事業廃止届を市に提出する一方、事業再開を市に働きかけた。
再開には新たな埋め立てスペースが必要だった。そこでレッグは、処理場内の廃棄物を重機で圧縮して地ならしする「転圧」によってスペースを確保することにした。
市は転圧を了承。中村氏は、廃止届からわずか2カ月後、レッグに事業再開許可を出した。
ところが、無理な転圧が原因で処理場の下の地下水路の遮蔽口が破損、汚染水や廃棄物が河川に流出し、大規模な環境汚染事故が発生した。
この汚染対策のために、総額70億円もの血税が投入された。これは、社会の注目を集めた加計学園への補助金額(約93億円)に匹敵する。
以上の経緯から明らかなように、レッグ問題の本質は・悪質業者のレッグに対し、中村市長は毅然たる対応を怠り、一度も行政命令を出さなかった・中村氏はレッグ処理場の転圧を了承し、転圧後に悪質業者のレッグに事業再開許可を出した・転圧が原因で大規模な環境汚染が発生し、70億円もの血税が投入された、という点にある。
中村氏の責任はだれの目にも明らかだろう。ところが中村氏は、レッグ問題についての自らの対応について、一貫して「法的には問題がなかった」と主張し、責任を取ろうとしない。