山田 2009年からモンゴル国の警察と中国の警察が一緒になって、モンゴル国にいる中国から逃げてきている人を捕まえているということは驚きです。2009年からということはかなり前からですが、どのような事情でそのようなことが起きているのでしょうか。つまり、中国から見て不適当な人物を中国と協力して捕まえるというようなことを、なぜモンゴル国政府がするようになったのか。政権が変わったりしたことが原因ですか?
エンフバット 私の考えでは、大統領や政権などの個人の問題ではありません。独立国家であるはずのモンゴル国ですが、中国の影響力はとてつもなく強大です。しかもその影響力はいま増大しています。政治的にも、経済的にも、文化的にも、中国の影響力は非常に大きいです。中国の圧力の下では、モンゴル国政府にとっては選択の余地がなく、中国に協力せざるを得ない状況です。政権与党が民主党であろうと人民党であろうとそれほど大きな違いはありませんが、いまは人民党が与党で特に悪くなっていっています。モンゴル国の市民はいまの人民党の政権が独裁的になっていっていることを非常に心配しています。
山田 以前、私もモンゴル国を訪れたことがあるのですが、モンゴルの人々の中国嫌いというのは非常に強かった覚えがあります。ロシアのことは好きなようでしたが、中国は嫌いだという人が非常に多かったのですが、いまも同じ状況ですか?
エンフバット 一般のモンゴル市民の状況は、反中国です。人々は中国が嫌いですし、中国の影響力が強くなっていることを恐れています。中国の圧力によって独立が脅かされていると感じています。
しかし、政府は全く違います。モンゴル国政府は南モンゴルについてや人権問題については全く触れません。ムンヘバヤルの事件を見てもらえばわかるように、今や、中国政府の言うことを聞いて、モンゴル国政府は自らの国民を処罰することまでしています。これがいまモンゴル国で起きている現実です。
それだけではありません。ラムジャブが中国によって逮捕されて中国に連行された事件の後、モンゴル国政府の圧力によってモンゴル国のニュースメディアはこの事件について、ラムジャブは逮捕されたのでも連行されたのでもなく、ラムジャブの家族が迎えにきたので中国に帰ったのだと報道しています。これは中国政府の作ったストーリーです。モンゴル国政府は自国のメディアに圧力をかけて、中国の作ったストーリーを流しているのです。これを見ても、いかに中国の影響力がモンゴル国政府に対して強いのかがわかってもらえると思います。
そして先ほども言いましたように、ムンヘバヤルの事件はさらに一歩悪い新しい事態なのです。モンゴル国政府が、中国の圧力によって自国民を処罰したのですから。
G7広島サミット共同宣言からも外された南モンゴル
石井 エンフバットさんから要望などありましたら話してください。
エンフバット G7広島サミットの共同宣言において、チベットとウイグルと香港は名前が明記されていますが、残念ながら南モンゴルは書かれていませんでした。私たちの希望としては、日本の国内のものであれ国際的なものであれ、今後の声明文や決議などのあらゆる機会において、南モンゴルも漏れなくしっかりと書き込まれるように協力をお願いしたいと思います。
山田 日本政府が南モンゴルについて正しく認識していくように、皆さんからも情報をいただきながら、常に政府に対して情報提供していく必要があると思っています。我々の仲間である中谷元人権担当首相補佐官もいますので、補佐官を通じて岸田総理にも、南モンゴルも弾圧を受けているということを頭に入れてもらうように働きかけていきます。
我々は「国会決議」では南モンゴルもしっかり入れたわけです。G7の議長国としては今年(2023年)いっぱいは岸田総理が議長なので、今後こういったものを発する時には南モンゴルもきちんと含まれるように訴えていこうと思います。
2019年の12月に安倍総理が中国を訪問したのですが、この時安倍総理が初めてウイグルの問題を習近平主席に対して言及しました。それまでチベットについては言っていたのですが、ウイグルには触れていませんでした。日本の外務省は、ウイグルについての発言はされないようにと押さえていたのだけれども、安倍総理はこの時はっきりウイグルの人権状況についても言われたのです。安倍総理からお聞きした話です。安倍総理がウイグルと言及したら、その時会議が凍りついて、習近平主席も一瞬顔面蒼白になってちょっと言葉が出なかったそうです。そして習近平主席は一言「ウイグルは国内の問題だ」というのが精一杯だったそうです。
岸田総理には、この安倍総理に習って、チベット、ウイグルに続いて南モンゴルともはっきり言ってもらうようにしないといけないです。安倍総理のその時にはウイグルが初めて言及され習近平主席も凍りついたわけだけども、いまはもう毎回当たり前のように触れているわけです。南モンゴルにも当然触れるというようにしていかないといけないと思います。(対談は2023年6月7日に行われた)
2023年6月8日、参議院議員会館にて勉強会後の集合写真。
後列中央:エンフバット・トゴチョグ(南モンゴル人権情報センター 代表)
後列左から2人目:ドゴルジャブ・ホタラ(同センター 理事)
前列左から2人目:チョロー博士(同センター 理事)