学習支援拠点を利用しない児童
ここまではムチに対する質問であった。では次に、トルコ系住民が地元に溶け込むための施策、つまりアメにあたる質問の答えはどうだろうか。教育については市側も危機感を抱いているようだ。
「日本語指導が必要な外国人児童生徒のなかには、言語や文化の違いから、行動面や学習意欲の面など指導に困難な状況が生じることもあります。このことから適切な日本語指導を行い、基礎学力を定着させることは、外国人児童生徒の学校生活への適応や日本のルール、慣習を身に付ける上で、大変重要であると認識しています」
その上で日本語の指導にも力を入れようとしていることがわかる。
「各学校においては、児童生徒の実態に応じて日本語指導に関わる特別の教育課程を編成し、日本語指導教員が中心となって、個に応じた指導を行い、全ての授業の基盤となる日本語の習得や基礎学力の定着に努めているところです」
そのほか、
・市内に3人しかいないトルコ語が話せる外国人相談員の負担軽減
・町会・自治会の中東系外国人家庭の巡回
・外国人の幼児を預かる保育所への支援
・スポーツマンシップや礼儀などを学べる各種スポーツ少年団への加入
・中東系住民の経営者の青年会議所、商工会議所などへの加入促進や周知活動
それらに対しても、市側はことごとく前向きであった。
とはいえ仮放免者の実態が把握できていない以上、急な改善はかなり難しいし、現状ではなかなか効果が表れていない。
例えば、市内16カ所に点在する学習支援拠点に通っているトルコ国籍の子どもはわずか7名しかいないという。就学年齢の児童が数百人と推計されるなかでの7人なのだ。裏返せば、ほとんどの児童が学習支援拠点を利用していないことがわかる。
《多文化共生を掲げ、外国人住民の住みやすさに考慮した政策を打ち出してきた奥ノ木信夫川口市市長》
大々的な移民政策は是か非か
今回の議会で、市長を始めとする市行政が、一部の不良外国人による迷惑・犯罪行為の深刻さにやっと気がついたと言えるのではないか。その気づきがあったからこそ、「善良な外国人には寄り添い、不良外国人には厳格に対する」というアメとムチを使い分ける方針へと、市側は軌道修正できたのだろう。問題解決のスタートラインにやっと立ったのだ。
このような市側の前向きな回答に対して、奥富精一議員はあくまで冷静だ。
「今の段階では、『和せず同ぜず』の一部外国人に対しては、最低限、法とルールと慣習を守っていただき、お互いに邪魔せず干渉せず居住することを認知して過ごしてほしいと思います。それが、急かずにゆっくりと、世代が変わるころには私よりも賢い次世代が順応しながら共生を実現していくと信じています。そのためには、まずは外国人の方が不法行為をやめて、ルールや慣習を守り地域に寄り添うことが優先であり、その先に共生の可能性があると考えています」
川口市の混乱は、未来の日本を先取りした問題なのかもしれない。少子高齢化に対し、国は大々的な移民政策をとろうとしている。しかしだ。今後、強引にその政策を進めることに対し、ほんとうにいいのかと、僕自身、不安を感じている。
というのも、この川口市のケースから読み取れる通り、文化風習が全く違う外国人たちを受け入れることは大変なのである。ほとんどの外国人が真面目に生活し、迷惑事を何も起こさなかったとしても、川口市のように軋轢が起きてしまうのだ。
実際、2015年に100万人以上の難民をシリアやリビアなどから受け入れたドイツはその年の年末、大都市のケルンで、アラブ人・北アフリカ人を主体とした約1000人による集団強盗・性的暴行事件が繰り広げられるなど、治安がかなり悪化してしまった。
ドイツ国内なのに彼らは溶け込まず、母国のスタイルのまま暮らしている。そんな彼らはドイツに居続け、さらにその数を増やしている。しかもドイツ政府は彼らを強制送還することもできないでいる。こうした状況はあらゆる西ヨーロッパの国々に見られる現象だ。