国民栄誉賞受賞ジャーナリストの不当逮捕に習近平の影|石井英俊

国民栄誉賞受賞ジャーナリストの不当逮捕に習近平の影|石井英俊

いま民主主義国であったはずのモンゴル国が、独裁国家中国によってその色を塗り替えられようとしている。そのような中、高市早苗大臣が会長を務める「南モンゴルを支援する国会議員連盟」が世界を動かした!


日本で国会議員が動いたので、次は世界の人権団体で一斉に動こうとの提案を行って回った筆者の念頭にあったのは、北京冬季オリンピックへのボイコット運動の時に、世界で200を超える人権団体による共同声明文を出したことだった。あの時、世界中で大きなニュースにもなった経験から、本件でも大きな運動を作れると考えたのだ。

年が明けて本年1月12日、世界で100を超える人権団体が、モンゴル国政府に対してムンヘバヤルの即時釈放を求める共同声明文を発出した。この共同声明文の中には、日本の南モンゴル議連が10月に声明文を出したことについても触れられている。大きな意味があったと受け止められているのだ。

実際に署名の取りまとめに動いたのは、先述した南モンゴル人権情報センターで、100を超える人権団体のうち約30がモンゴル人の団体だった。モンゴル国や南モンゴルをはじめ、ロシアのブリヤート、アフガニスタンのハザラなど、世界各地のモンゴル人たちの団体が名を連ねている。

そして、100を超える団体の代表として、10人が筆頭署名者として個人名を出しているが、特筆すべきは、エルベグドルジ前モンゴル国大統領が名前を出していることだ。前大統領が、現政権に対して、ムンヘバヤルの逮捕は不当であり釈放すべきだと求める声明文にサインしたのだ。これは重大な意味を持っている。

さらには、ウイグル人の世界全体のリーダーである世界ウイグル会議のドルクン・エイサ総裁や、代表なき国家民族機構(UNPO)の代表、さらには言論の自由の観点からジャーナリストの不当逮捕に抗議する趣旨でペン・アメリカまでが名前を連ねている。

共同声明文への署名の取りまとめが始まったのは12月中旬だが、この最中の12月21日、モンゴル国最高裁判所において、ムンヘバヤルへの懲役10年の判決が確定した。モンゴル国での法的手続きは残念ながらこれで終わった形となり、あとは国際的圧力によっていかに釈放を勝ち取るかに焦点が絞られている。

ノーベル平和賞の候補者としてノミネート

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そのような中、日本の国会議員によって、ムンヘバヤルの救出運動は進んでいく。二人の日本の国会議員(名前は非公開)が推薦人となって、ムンヘバヤルは2023年のノーベル平和賞の候補者としてノミネートされたのだ。

ノーベル平和賞は毎年1月31日に候補者の推薦が締め切られ、10月に受賞者が発表される。毎年200から300の個人または団体がノミネートされている。物理学賞や化学賞などが実際の「成果」に基づいて受賞されるのと違い、平和賞は政治状況に極端に影響される。

典型的なのは昨年で、2022年ノーベル平和賞がロシアとウクライナの人権団体に与えられたのは、ロシアによるウクライナ侵攻があったからだ。そのため、平和賞には意味はないと考える人もいるだろうが、その権威が実際に影響力を持っているのも事実である。受賞にまで至らなくても、候補者として正式にノミネートされただけでも、当該人物に対する扱いに違いは出てくるだろう。

1月31日、ノルウェーのノーベル委員会から、ムンヘバヤルの推薦を正式に受理した旨の連絡を事務局である筆者が受け取った。ムンヘバヤルがノーベル平和賞にノミネートされたことは、彼一人の名誉ではなく、弾圧下で自由と人権のために戦う全ての人々に勇気を与えるものだと考えている。

北をロシア、南を中国に囲まれ、地政学的に見れば、いわば独裁国家の海に浮かぶ民主主義の島と言ってもよいのがモンゴル国だ。この橋頭堡としての価値を自由民主主義陣営としてもいま一度見直すべきではないだろうか。

ムンヘバヤルの救出運動は彼一人を助ける運動ではない。モンゴル国の民主主義を守る運動であり、中国の覇権主義の拡大を食い止める運動なのだ。
(一部文中敬称略)

石井英俊

https://hanada-plus.jp/articles/1233

自由インド太平洋連盟副会長。1976年、福岡市生まれ。九州大学経済学部卒業。経済団体職員などを経て現職。アジアの民族問題を中心に、国内外にネットワークを持つ国際人権活動家。

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