国民栄誉賞受賞ジャーナリストの不当逮捕に習近平の影|石井英俊

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いま民主主義国であったはずのモンゴル国が、独裁国家中国によってその色を塗り替えられようとしている。そのような中、高市早苗大臣が会長を務める「南モンゴルを支援する国会議員連盟」が世界を動かした!


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事の発端は昨年2月に突如としておとずれた。事件の概要はこうだ。

2月17日、モンゴル国ウランバートル市において、モンゴル国中央情報機関(GIA)によって、ムンヘバヤル・チョローンドルジ氏(以下、ムンヘバヤル)がスパイ罪の容疑で逮捕された。

ムンヘバヤルは、モンゴル国出身のモンゴル国民で、現在55歳(逮捕当時54歳)の著名なジャーナリストだ。モンゴル国立大学を卒業後、新聞社での勤務などを経て様々な著作を発表し、モンゴル国政府からモンゴル国最高の勲章である北極星勲章や国民栄誉賞などを授与されている。モンゴルでは知らない人はいない。

ムンヘバヤルは南モンゴル(中国の内モンゴル自治区)の人権問題や環境問題に熱心に取り組んできたことでも知られ、筆者も直接会って話をしたこともあるほか、SNSを通じて情報交換を行ったりもしてきた。同氏が2016年に来日した折には、筆者が招聘人、身元保証人になってビザの取得を手伝ったりもした友人だ。

通常の刑事犯罪として警察に逮捕されたのではなく、情報機関によるスパイ罪で逮捕されたムンヘバヤルの裁判は秘密裁判によって行われた。弁護士が付くことは許されているため、裁判の進行と内容は、その弁護士が記者会見を度々行うことによって外部に伝えられてきた。

中国政府の意向

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ムンヘバヤルの逮捕容疑は、①外国の情報機関と共謀し、②中国に対するスパイ行為を行い、③モンゴル国と中国との関係を損ない、④国家安全を脅かした、というものだ。

GIAが発表した逮捕容疑では「外国の情報機関と共謀」とされているが、裁判ではインドの情報機関の名前があげられ、駐モンゴル国インド大使館の二等書記官も名指しされている。要は、「インドから資金を受け取って、反中国の活動を行った」という罪状だ。

ところが、このインドの外交官に対してモンゴル国は何の措置もしていない。国外退去などの処分すらしていないのだ。ムンヘバヤルだけを逮捕し、もう一人は放置している。明らかに異常である。

そもそも中国に対するスパイ行為を行ったからモンゴル国が逮捕するというストーリー自体が、話の筋立てとしておかしい。ムンヘバヤルの弁護士も主張しているが、モンゴル国のいかなる憲法条文や法律にも、他国に対するスパイ行為で自国民を処罰する規定など存在していない。言うなれば、中国の代わりにモンゴル国が自国民を処罰するという本件の構図は、法的に全く成立しない事案なのだ。

このような無茶な筋立てを行ってまでムンヘバヤルを処罰しようとするモンゴル国政府の頑なな姿勢の背後には、長年にわたって南モンゴル問題で大きな働きをしてきたムンヘバヤルを疎ましく思っている中国政府の影響があると考えられる。中国政府の何らかの意向を受けて、モンゴル国政府が動いているとしか考えられないのだ。

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