非常に驚いた年頭記者会見
岸田文雄首相は1月4日、伊勢神宮参拝のついでに、国民に向けて年頭会見を行った。私はこれを聴いて、2つの意味で非常に驚いた。まず一つはその姿勢に。もう一つはその内容に。
実は日本の総理大臣が、国民に直接語りかける機会は極めて少ない。日々の記者会見は官房長官に代行させているし、国会での発言は、語りかける相手は目の前に座っている与野党の国会議員であって国民に直接語りかけているわけではない。
一方、官邸の出入りの際に「ぶら下がり」と呼ばれる簡単な質疑応答を行うこともあるが、これは北朝鮮の弾道ミサイル発射や自然災害など、不測の事態が起きた時にセットされる。語りかける相手も総理番の記者で、国民に直接じっくり話しかける種類のものではない。
とすると予め日程がわかっていて、首相が準備をして国民に直接思いを伝えることが出来る機会は、実は年頭会見と施政方針演説、そして予算成立時などの会見くらいしかないのだ。
だから近年の首相は年頭会見に向けて相当な準備をし、国民の歓心を惹きつけようと様々に工夫して国民に語りかけるのが通例となっていた。平素の「防御型」「紋切型」の国会答弁ではなく、「攻める」「語りかける」会見だからこそ、年頭会見には首相個人の人間の器や個性が色濃く滲んだ。
ところが岸田首相の今年の年頭会見には工夫の跡もウィットのカケラもなく、岸田文雄という政治家の思いも気迫も全く伝わらない無味乾燥な「コピペ会見」だった。
施政方針演説原案の「コピペ」
就任以来、岸田首相が行う重要な公式発言はほぼ例外なく何かの「コピペ」である。
その際たるものが、昨年の東南アジア外遊時の「中国名指し批判」だった。
カンボジアの首都・プノンペンで先の全人代で完全引退が決まっていた李克強を前に、中国という国名を挙げて批判してみせた。
これについて日頃から岸田首相を擁護している一部の評論家らは、「岸田首相は覚醒した」「毅然とした外交に目覚めた」などと褒め称えた。
ところがこの発言が実はアメリカ側に言わされただけの無惨な「コピペ発言」だったことが翌日明らかになる。米中首脳会談でバイデン大統領が習近平に語りかけた内容と、ほとんど一言一句同じだったのである。政府関係者も「中国名指し批判」の前にアメリカとの「調整」があったことを認めた。
これについてはHanadaプラス「虚しき岸田政権のコピペ外交」で詳報した。
それでは今回の年頭会見は、何の「コピペ」だったのか。少しでも政治を取材したことがある人間であれば今回の年頭会見の元原稿が今月下旬に行われる施政方針演説原稿の抜粋であることは、容易に想像がつく。
施政方針演説とは総理大臣が衆参両院で通常国会の冒頭に今年1年の政権の運営方針を示すもので、基本的には中央省庁各省の幹部が自分の担当する分野のことを書き、それを官邸で取りまとめる形となる。
各役所としては施政方針演説の内容が春に決まる本予算の獲得額に直結するだけに、並々ならぬ決意を持って渾身の文章を放り込む。だから結果的に大半が個別政策の羅列となり、一般国民が聞いても極めて「つまらない」演説となる。
今年の岸田首相の年頭会見は、正に「施政方針演説スタイル」で、だらだらと政策を羅列する内容だった。そもそも、構成からして年頭会見は施政方針演説と全く同じだった。
年頭会見は、
(1)就任以来取り組んできたことを述べ、
(2)今年1年取り組むこと
という順番だったが、施政方針演説も「政権の実績→重点政策」というのが歴代首相の演説の「基本構造」である。だから岸田年頭会見が施政方針演説の草稿から骨格と表現を抽出したものであることは容易に想像がつく。
さらに「コピペ」の痕跡が顕著だったのが、今年取り組む重要課題を示した部分だ。「新しい資本主義」と「異次元の少子化対策」について、
・厚労省の労務改革や労働移動円滑化
・デジタル庁のDX(デジタル・トランスフォーメーション)
・環境省と経産省のGX(グリーン・トランスフォーメーション)
・経産省と経済安保担当の重要産業の官民連携
など、各省庁の作った「政策目次」をそのままコピペした内容が延々と続いた。