「消費税大増税」の本心を露呈した岸田首相|山口敬之【WEB連載第22回】

「消費税大増税」の本心を露呈した岸田首相|山口敬之【WEB連載第22回】

岸田政権の「実績」は大半が「言うだけ」「検討するだけ」だが、岸田首相が「消費税大増税」にありとあらゆる手段を講じて邁進する腹づもりであることが年頭記者会見で露呈した――。(サムネイルは首相官邸HP)


経済政策は「言うこと」と「やること」が真逆

経済政策に至っては「言うだけ」どころか、「『賃上げ』と『投資』という2つの分配を強固に進める」といいながら賃上げや投資に冷や水をぶっかけるような増税を打ち出しており、論理が完全に破綻している。

「賃金アップ」といいながら法人税増税。「所得倍増」といいながら所得税増税。防衛力増強を言い訳に、自らの重点政策と完全に逆行する増税を打ち出しているのが岸田首相なのだ。

一昨年の総裁選で「貯蓄から投資へ」と言いながら金融所得課税をブチ上げた時には「岸田文雄はバカなのか?」と噂された。今回もそのバカぶりはしっかりと受け継がれ、もはや異次元の段階に入っている。

例えば、岸田首相が年頭会見で繰り返し強調した「賃上げ」を巡る自己矛盾だ。

企業側とすれば、一旦上げた賃金は余程のことがなければ下げられないから、収益が伸びても賃上げを決断するのは相当な勇気がいることなのだ。そのことは、岸田首相もわかっているようだ。年頭会見ではこんなことを述べている。

「この30年間、企業収益が伸びても期待されたほどに賃金は伸びず、想定されたトリクルダウンは起きなかった」

そうした企業の基本的な体質や思考手順を踏まえて、政府として確実に賃上げを実現出来る環境を作るために最も確実で手っ取り早いのが法人税減税だ。

企業が賃上げを決断するためには、そのための資金を何らかの形で調達してこなければならない。「法人税を下げたんだから、その分賃上げしろ」と言えば、経営者も聞く耳を持つ。

第2次安倍政権では欧米並みに法人税を下げることを政権の重要目標として掲げ、租税特別措置を利用して3兆8000億円の法人税減税を実現した。その上で、安倍首相は経済団体幹部と面会して直接賃上げを要請した。そこまでするのが総理大臣の「本気の賃上げ政策」だ。

ところが岸田首相は真逆をやっている。防衛費増のたかだか1兆円のために法人税を上げると宣言したのだ。

ただでさえ賃金を上げたがらない企業に対して「この先国庫に支払う税金が増えるというのに、賃金はあげられない」という絶好の言い訳の材料を岸田首相が与えているのだ。

要するに賃上げについては、「言うだけ」ですらなく企業の賃上げマインドに自ら冷や水をぶっかけている首相を「バカ」「自己矛盾」と呼んでも、誹謗中傷には当たらないだろう。

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増税だけは周到かつ執拗

少しでも永田町を取材した人間にとっては、年頭会見が施政方針演説の「コピペ」であることは一目瞭然だったからこそ、その内容の異常性に多くの関係者が驚愕した。

それは岸田首相が「消費税大増税」にありとあらゆる手段を講じて邁進する腹づもりであること、そしてそのキーワードが「異次元の少子化対策」であることが図らずも露呈したからである。

岸田首相は年頭会見の後半、今年取り組む重点課題として2つの課題を挙げた。
・新しい好循環の基盤の起動 
・異次元の少子化対策

このうち「異次元の少子化対策」としては3つの強化策を示した。
(1)児童手当など経済的支援
(2)保育・子育てサービス
(3)育休など働き方改革

少子化対策としては、すでにこども家庭庁の新設で4兆8000億円ほどの歳出増が確定しているが、「異次元の少子化対策」というならこれだけでは全く不十分だ。

年頭会見で強調した3つの強化策を岸田首相が本気でやるなら、それぞれ少なくとも数兆〜数十兆円規模の歳出が想定される。

例えば、現行では1万円〜1万5千円程度の児童手当に約1兆6000億円の特別会計を計上している。しかし児童手当を数千円積みましたところで少子化に歯止めがかかるはずもない。児童手当を倍増・3倍増してこそ「異次元の少子化対策」と言える。このためには即2〜6兆円の歳出純増が不可欠となる。

保育・子育てサービスの向上と一口に言っても、ここにかかる費用は莫大だ。少子化で託児所保育所の経営が厳しくなる中、本当に子供を産み育てやすい環境を先行して作り出すためには、子育て関連企業支援という形で巨額の税金投入が不可欠となる。

ここで必要となる金額は支援のスタイルによって上下するが、多くの専門家が「少子化に歯止めがかかるように子育てサービスを拡充するために必要な公的資金が10兆円を下回ることはあり得ない」と口を揃える。
 
岸田首相は昨年12月10日の記者会見で防衛費増の安定財源を確保するため国債を発行する可能性について問われ、「未来の世代に対する責任として取り得ない」と否定した上で「将来世代に先送りすることなく、今を生きる我々が将来世代への責任として対応すべきものと考えた」と述べた。

43兆円の防衛費増額分のうちのわずか1兆円を題材に増税を正当化した岸田首相だ。「異次元の少子化対策」で必要となる新たな数十兆円規模の歳出増で、ターゲットとなる「国民負担」は消費税以外考えられない。

これを裏付けるように、党税調最高幹部の甘利明前幹事長が「消費税増税も選択肢」とすかさず述べて物議を醸した。

新型コロナウイルス対策やエネルギー政策など増税に直結しない事柄については「言うだけ」「検討するだけ」。ところが、増税に対しては周到に準備し、狡猾に理論武装し、執拗に主張する。

国民に直接語りかける貴重な機会に、政治家としての矜持も総理大臣としての思いも込めず、「コピペ」でお茶を濁した岸田首相。

しかし、コピペ元が岸田政権が今年取り組む重要政策を羅列した施政方針演説だからこそ、その要旨をまとめて年頭会見に集約する過程で図らずも露呈したのが「消費税大増税」という岸田首相本人の秘めたる「最重要課題」だったのである。

岸田首相が政権を握っている限り、ありとあらゆる手段を使って消費税を上げにくる。そのことだけが確実に伝わった年頭会見だった。

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