そんな中、『ネイバル・ウォー・カレッジ(Naval War College Review)』の最新2022年冬号には、「中国に対する攻撃的な機雷敷設作戦」と題するマシュー・カンシアン(Matthew Cancian)氏の論文が掲載された。マシュー・カンシアン氏は、元海兵隊大尉の退役軍人であり、マチューセッツ工科大学で政治学の博士号を取得。現在は、ネイバル・ウォー・カレッジで軍事作戦を研究している人物だ。
彼の論文によると中国の台湾侵攻を阻止するには、台湾海峡に機雷原を敷設することが、戦闘的作戦よりもリスクの低い危機対応の方策だとして、中国が台湾に侵攻しようとする危機が発生した際に機雷敷設が行えるよう、平時の備えをすべきだと主張している。中国の貿易の60%は海路で行われ、海上輸入は世界の海上貿易の4分の1を占めている。台湾海峡を封鎖すればその影響は、廈門(アモイ)、泉州、福州の各港にも及び、中国国内の貿易を混乱させるのには十分だ。費用対効果にすぐれた機雷戦を台湾海峡に仕掛けることで、台湾防衛を果たそうとするのがこの論文の主旨である。
『ネイバル・ウォー・カレッジ』最新2022年冬号
日本が海上封鎖された過去
米国には、過去に機雷封鎖作戦を成功させた歴史がある。その最も成功した例としてカンシアン氏は、米海軍が立案し、米陸軍航空軍が行なった第二次世界大戦中の日本への機雷封鎖作戦「スターベイション(飢餓)作戦」を挙げている。1945年当時、日本に残された海上交通路(シーレーン)は、大連や華北、朝鮮半島に向かう航路のほか、本土内航路のみであり、本土決戦に向けた軍需物質と国民生活に必要な食料や石炭の輸送が行われていた。連合国軍は、海上交通路の遮断を潜水艦や航空機によって行なっていたが、残された航路が沿岸部のみとなっては、潜水艦はもはや使用できない。そこで米海軍が中心となって立案されたのが、機雷による海上封鎖作戦、「スターベイション作戦」だった。
米海軍が開発した船に直接接触しないでも発火するMK25などのセンサー式発火装置が装備された機雷をマリアナ諸島から出撃したB29爆撃機で、空中から敷設するというもので、敷設された機雷は1万2千個といわれ、200トンクラスの船舶が損傷もしくは沈没させられ、日本の海運が事実上停止に追い込まれた。この作戦で連合国軍が失った航空機は、たった15機のみで、延べ出撃数に対する損失率(Combat Losses)は1%未満であり、都市部への爆撃より遥かに低い損失で、潜水艦による船舶への攻撃の9倍もの費用対効果があったと分析されている。