【橋下徹研究⑩】「副市長案件」という虚構|山口敬之【WEB連載第10回】

【橋下徹研究⑩】「副市長案件」という虚構|山口敬之【WEB連載第10回】

「上海電力疑惑」について松井一郎市長は「副市長案件」、橋下徹氏は「オープンな副市長会議で決定」「今回の上海電力騒動は調査能力の幼稚な者たちがでっち上げた冤罪報道」とツイート。だが、6月10日の市議会で政策企画室政策企画課長はこう断言した。「副市長案件という言葉を聞いたことはございません」。幼稚なのはいったい誰なのか。「副市長会議」という制度は、当時まだなかったのである――。


「副市長案件」は松井市長による派手な脚色

そして、木下市議が暴いたもう一つのウソが「副市長案件」という松井市長の説明だった。木下市議は、大阪市の政策全般を統括する政策企画室政策企画課長から、決定的な答弁を引き出していた。

木下市議 今日は政策企画室にも来ていただいております。小林課長、あなた、副市長案件という言葉を聞かれたこと、耳にされたことがありますか?

小林課長 政策企画室政策企画担当課長小林です。お答えいたします。副市長案件という言葉を聞いたことはございません。


松井市長は、咲洲メガソーラー疑惑について、市長の権限を使って調査したと述べた。そしてその結果、咲洲へのメガソーラー導入は「副市長案件」であって、橋下市長は一切関与していないと説明していた。

ところが、その調査を担当した大阪市の幹部連中は誰一人として「副市長案件」という単語を使ったことも聞いたこともないというのである。

確かに、問題の会議の決裁をしたのは当時の副市長・田中清剛氏だ。ただ、それは大阪市の通常の行政手続き上よくある「副市長決裁」であって、「副市長会議」によって決まったのものでもなければ、「副市長案件」という形で処理されたものでもなかった。

「副市長会議で決められた副市長案件」だったという松井市長の説明は、大阪市の職員による報告に、松井市長によって派手な脚色が付け加えられた結果、誕生したロジックだったことが、木下市議の精密な質疑ではっきりと浮き彫りになったのである。

「橋下隠し」のための無理筋弁明

松井市長が副市長を殊更に強調した理由ははっきりしている。2011年12月に就任した橋下徹市長が、2012年10月に決定された咲洲メガソーラーの事業決定に一切関与していないことを強調するためだ。

しかし、なぜそんな無理筋の弁明をする必要があったのだろうか。橋下市長はその会議の1か月前の2012年9月19日、市議会で咲洲でのメガソーラー事業についてこんな発言をしていた。

蓄電池、それから太陽光発電等について、今非常に喫緊の課題となっている電力の問題について、ベイエリアを中心にしっかり国際戦略総合特区の中でアジアの拠点になるように引っ張っていこうと思っています。ですから、あの地域にメガソーラーを引っ張ってこれることになりました。(中略)

本来あれはもうどこでも貸せば、みんな借りたい、借りたいという業者が山ほど出てくるんですよ。ただ、(編集部注:夢洲メガソーラーの件では)以前もうある業者に決めてしまってたので、それをひっくり返すことはできないということを、僕は報告聞きましたから、それだったら、今やもうその業者にしなくても、どこでもみんなが賃料を払ってでもやりたいとかいろいろなことを言ってくる中で、もう既に過去に決まってたからといってその業者にするんだったら、地元還元か何かするような仕組みを考えてよと。

要はあれ、もうかるんですよ。メガソーラーをやれば今はもうもうかる仕組みになってます。その利益をやっぱりそれは地元還元するような仕組みを考えてということを担当部局に今指示を出しています。

僕は一般財源から特定の配慮ということではなくて、此花というところは環境都市、夢洲・咲洲・舞洲は環境都市、そういう軸でくくっていこうという中で、メガソーラー、一方、これはプラスのある意味環境戦略ですね。

(2012年9月19日、橋下市長発言)

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