米露のプロパガンダに踊らされるな!|山岡鉄秀

米露のプロパガンダに踊らされるな!|山岡鉄秀

主流メディアで流される情報がいかに恣意的に操作されているか、骨身にしみて知っているはずだ。それを思い知らされたのが1991年の第1次湾岸戦争である。油にまみれた水鳥、そして、泣きながらイラク人兵士の蛮行を議会で証言したクウェート人少女。それらは戦争広告代理店によって仕組まれたフェイクニュースだった――。親ウクライナか、親ロシアか、の二元論で喧嘩している場合ではない!


余計な挑発よりも、防衛力強化を急げ!

では、日本の防衛戦略であるクアッドは機能するだろうか。

まず、アメリカは核保有国とは戦わないことが今回明確になった。台湾が攻撃されれば傍観はできないかもしれないが、尖閣を率先して防衛することはあり得ない。オーストラリアは前述のように、ソロモン諸島が中国の基地化したら、軍事的能力が大幅に制限されることになる。インドは独自路線を歩んでいる。反中だが、今回ロシア制裁には加わらなかった。ロシアから防衛装備の供給を受けているからだ。また、インドはアメリカに対しても不信感を持っている。

また、オーストラリアでは保守的なモリソン政権が破れ、リベラルで親中的な労働党政権が誕生してしまった。モリソン政権下でのパンデミック対応に批判が集まったこともあるが、中国系移民が増加し、モリソン政権の対中強硬策を嫌って労働党に票が流れた選挙区も複数見受けられた。自国に対して敵対的な国から大量に移民を受け入れることの危険と矛盾が露呈した。

つまり、日本はウクライナに同情し、ロシアを犯罪者呼ばわりしながら、気が付けば「不良に囲まれたのび太」状態になっているのである。ドラえもんはいないし、タケコプターで逃げることもできない。ただ敵を増やしただけで終わる可能性がある。

だから、ロシア苦戦のメディア報道を見て安堵したり喜んだりしている場合ではまったくないのだ。ウクライナへの人道支援はしっかりすべきだし、西側の一員として、ロシアの軍事行動を非難し、早期停戦を呼び掛けることも必要だ。

しかし、アメリカの言いなりになって、自らの脆弱性を省みずに、こちらから先にロシアの外交官を追放するような敵対行為を取るのは無駄な報復合戦を招くだけで、日本の安全保障の向上に1ミリも貢献しない。こちらから余計な挑発はせずに、大急ぎで自らの防衛力強化に務めなければならない局面なのだ。

ランボーの異名を持つ新任のラーム・エマニュエル米国大使に煽られたのか、自衛隊の備品をウクライナに送ったのも痛恨の失敗だ。陸上自衛隊の正式な迷彩服を着て誰が戦うと思っているのか。

親ウクライナか、親ロシアかという悪しき二元論

Getty logo

先日、アゾフ連隊の司令官と思しきウクライナ軍の男が自撮り動画を2本投稿した。1本は、日本の公安調査庁が、アゾフ連隊が白人至上主義のネオナチ集団だという記述を2021年の国際テロハンドブックから取り下げたことを自慢し、諸外国にも取り下げを求めるメッセージ。

もうひとつは、今回の戦争に関する神話を否定すると称し、ロシア軍はロシアでもスラブでもなく、黒い悪魔(黒人)と黄色い羊(東洋人)の混成であり、この戦争は邪悪な多国籍アジア人部隊との戦争だと吐き捨てるもの。

彼らは未だに正式にナチ武装親衛隊のマーク(ヴォルフスアンゲル)と黒い太陽を正式に使用する白人至上主義者集団なのだ。そんなアジア人蔑視の連中が自衛隊の迷彩服に身を固めて戦うことは到底容認できない。ちなみに、この司令官の部隊はアゾフを名乗るが、正式な国家親衛隊のアゾフではないという指摘があったが、同じことだ。ウクライナで主に市街戦を戦っているのはアゾフ及びそれに類する過激な民兵集団なのだ。

もちろん、極右勢力はどの国にも存在する。しかし、正式にナチのシンボルを使う部隊が正規軍となり、創設者が政府の中枢に入っているのはウクライナぐらいなものだ。そういう国でありながら、いや、そういう国だから、昭和天皇をヒトラーやムッソリーニと並べて侮辱することに頓着ないのだ。アメリカやNATOは承知の上でそんなアゾフに武器を与え、軍事訓練を施してロシアにけしかけた。

無論、一般のウクライナ人はネオナチでもなく、被害者である。日本は感謝などされなくてよいから、人道支援は惜しまず行い、あとは自国のエネルギー供給源の確保、憲法改正、防衛力の強化に黙々と取り組むべきだ。

ウクライナは対ロシアの噛ませ犬として徹底的に利用された挙句に侵略された。日本も極東で中国に対する噛ませ犬として利用されかねない。同盟国アメリカには様々な人々がいる。戦争を忌避する人々もいれば、無理やり定期的に戦争を起こそうとする人々もいる。

アメリカが決して一枚岩ではないことを理解し、同盟を日本の国益に照らして機能させる努力をしながら、自国は自分たちで守り抜く決意を固めねばならない。こうしているうちにも北朝鮮はミサイルを乱射し、そのなかにはウクライナ製のエンジンを積んだものもあるのだ。

このままでは日本は極めて危険な状況に陥る。そのことに多くの日本人が気付く頃には、手遅れになっているかもしれない。親ウクライナか、親ロシアか、の二元論で喧嘩している場合ではない。メディアを鵜呑みにせず、日本人は頭を冷やして真剣に自らの心配をすべき時なのだ。

関連する投稿


進化する自衛隊隊舎 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

進化する自衛隊隊舎 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

かつての自衛隊員の隊舎といえば、和式トイレに扇風機、プライバシーに配慮がない部屋配置といった「昭和スタイル」の名残が色濃く残っていた。だが今、そのイメージは大きく変わろうとしている。兵庫県伊丹市にある千僧駐屯地(せんぞちゅうとんち)を取材した。


人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国と対峙し独立を勝ち取る戦いを行っている南モンゴル。100年におよぶ死闘から日本人が得るべき教訓とは何か。そして今年10月、日本で内モンゴル人民党100周年記念集会が開催される。


変わりつつある自衛官の処遇改善 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

変わりつつある自衛官の処遇改善 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

自衛隊員の職務の性質上、身体的・精神的なストレスは非常に大きい。こうしたなかで、しっかりと休息できる環境が整っていなければ、有事や災害時に本来の力を発揮することは難しい。今回は変わりつつある現場を取材した。


終戦80年に思うこと「私は『南京事件』との呼称も使わない」|和田政宗

終戦80年に思うこと「私は『南京事件』との呼称も使わない」|和田政宗

戦後80年にあたり、自虐史観に基づいた“日本は加害者である”との番組や報道が各メディアでは繰り広げられている。東京裁判や“南京大虐殺”肯定派は、おびただしい数の南京市民が日本軍に虐殺されたと言う。しかし、南京戦において日本軍は意図的に住民を殺害したとの記述は公文書に存在しない――。


ディープステートの正体|なべやかん

ディープステートの正体|なべやかん

大人気連載「なべやかん遺産」がシン・シリーズ突入! 芸能界屈指のコレクターであり、都市伝説、オカルト、スピリチュアルな話題が大好きな芸人・なべやかんが蒐集した選りすぐりの「怪」な話を紹介!


最新の投稿


【独占手記】我、かく戦えり|杉田水脈【2025年10月号】

【独占手記】我、かく戦えり|杉田水脈【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『【独占手記】我、かく戦えり|杉田水脈【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【読書亡羊】ウクライナの奮闘が台湾を救う理由とは  謝長廷『台湾「駐日大使」秘話』(産経新聞出版)|梶原麻衣子

【読書亡羊】ウクライナの奮闘が台湾を救う理由とは 謝長廷『台湾「駐日大使」秘話』(産経新聞出版)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


TBS報道特集の「差別報道」|藤原かずえ【2025年10月号】

TBS報道特集の「差別報道」|藤原かずえ【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『TBS報道特集の「差別報道」|藤原かずえ【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


悲劇の空母「飛龍」の無念|上垣外憲一【2025年10月号】

悲劇の空母「飛龍」の無念|上垣外憲一【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『悲劇の空母「飛龍」の無念|上垣外憲一【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【今週のサンモニ】「再エネ教」の信者の集会|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「再エネ教」の信者の集会|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。