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編集部・梶原の「リベラル本 ずぼら書評」

国谷キャスターが語る「NHKの公平性」――高橋源一郎編『憲法が変わるかもしれない社会』

旬の「リベラル本」、どんなことが書いてあるのか確認したいけれど……。そんな本をご紹介するこのシリーズ。6冊目は高橋源一郎編著『憲法が変わるかもしれない社会』。

■心躍るタイトル

この本のタイトルを見た時、思わず心躍りました。「憲法は一文字たりとも変えてはならず」との姿勢を保ってきた護憲派も、ようやく「憲法が変わるかもしれない」と思うところまで来たのか、と。

中身を読んだら「憲法改正のために、改正手続きの条文から変えようなんてのは反知性主義」(要約)などとあったりもして、その期待は裏切られるわけですが。

ただ、「憲法が変わるかもしれない」感は薄いものの、天皇との関係を論じている片山杜秀氏、原武史氏のパートは実に興味深いものがありました。ご興味のある方は是非。

■国谷裕子キャスターのあの事件

さて、大注目なのは、これも憲法そのものとは離れてしまうものの、元・NHK『クローズアップ現代』キャスターの国谷裕子さんの章。

国谷さんと言えば、2014年7月、同番組に出演した菅官房長官に番組終盤になって「食って掛かった」ことが官邸から問題視され、叱責を受けて涙した、とまことしやかに『フライデー』で報じられたあの件を思い浮かべないわけにはいきません。

2016年3月、実に23年にわたって務めてきたキャスターを降板。同時期に政権に批判的だった岸井成格氏や古館伊知郎氏らも番組を外れたことから、国谷さんの降板も「官邸の圧力だ」と騒がれていたわけで、おそらく一部では今も「国谷の降板は菅のせい」と認識されているのではないかと思います。

高橋さんもその点、興味津々の様子で、のっけから降板したというか、させられた? いきさつも、後で伺おうと思っています(笑)とノリノリ。

国谷さんによるSDGs(持続可能な未来のために世界が合意した共通目標)に関する話が終わると、高橋さんが切り込みます。

〈高橋 2014年7月には、憲法解釈の変更について、菅義偉官房長官に厳しい質問をして菅さんがキレそうになるという場面もありました。有名なのは、ラスト一問を30秒くらい前に質問して、まるで菅官房長官を追い込むように……問い詰めて行った(笑)。

そのときも、政府の代弁者たる官房長官に対して鋭く切り込むのはメディアとしてはまっとうで王道を行っているなと、一視聴者としては思ったのですが、やはりあのあと大変だったんでしょうか?

 国谷 私の失態は、ラスト30秒を切ったところで、「しかし、そもそも解釈を変更したということに対する原則の部分での違和感や不安は、どうやって払拭していくのか」という質問を投げかけてしまったことです。時間オーバーになってしまい、相手に答えていただく十分な時間を与えなかったという、大変失礼なことをしてしまった。これは私のミス。で、そのあとですよね。

 高橋 はい、その後が問題です。

 国谷 その後がよくわからないんですよね。私のところには直接来なかったので……何が起きたのか。

 高橋 なんかあったみたいですね。それがあって、結局降板した。

 国谷 いえいえ、そんなにストレートなことじゃないです(笑)。私が降板するまで、その後2年あるわけですから

実に歯切れの悪い国谷さん。このあと、番組の「出家詐欺」を巡る報道でのヤラセ疑惑が浮上したこと、NHK上層部のことにも触れながら日米関係への影響に切り込んだアメリカのケネディ駐日大使のインタビューと、この「菅事件」の3つで「技あり→降板」となったのではないかと聞かれ、こう答えています。

〈国谷 まあそうですね……きっと技があったんでしょう(笑)。

 高橋 分かりました、もうそれ以上は追及しません。国谷さんもこれから長い人生を生きていかなきゃいけないわけですし(笑)

これまた歯切れが悪い。ただ、降板は「菅事件」から2年後……これをどう見るかは人それぞれでしょうが、「官邸の圧力はあった」派の方々も、当事者のご意見をご参考ください。

■NHKは公平公正か?

もう一つ、NHKに対する「偏向批判」についても国谷さんは実に興味深いことを仰っています。

〈国谷 私は長いあいだ、報道における公平公正のありかた自体が問題になったという経験をしないできました。『クローズアップ現代』で気を付けていたのは、あるテーマにおいて今日は私たちはこのテーマをこの角度、この視点からお伝えいたします、とスタンスを明確にすることでした。(中略)

『クローズアップ現代』では(中略)あるテーマに関して一つの視点にフォーカスして制作することも多かったのですが、他の番組では別の視点で同じテーマを扱うこともあるわけです。

ですからNHK総合テレビというチャンネル全体では多様な放送がなされてバランスは取れているという考え方の中で長年番組に関わってきました。それに対してNHKの内部から何かを言われたり、外部から指摘を受けるというような経験は私自身にはありませんでした。

ところが私が番組を離れる2、3年前ごろから、ひとつの番組の中でも賛成・反対の意見、それぞれを公平に伝えるべきだという風が外から吹き始め、NHK内部の空気にも変化が起きてきました

これはなかなか貴重な見解です。NHKのノンフィクション・報道番組は、ともすれば「偏っている」とされる意見の取り上げ方、歴史の描き方をすることがある。近年ではネットを中心に、番組内容が検証され、批判されることも少なくありません。

一方、NHK内部では、2014年頃までは、仮にどこかの時間帯である視点に偏った番組を作っても、別の番組で補えばバランスが取れている、と理解されていたというのです。

確かに一番組の中で完全に公平性を保つのは難しいかもしれませんが、視聴者は一日中、NHKを見ているわけではない。「局トータルでプラマイゼロ、バランス取ってます」とする説明に、皆さんは納得できますか?

 

【本書の「気になるポイント」】
何より驚いたのは、この本の版元が「文藝春秋」だということです。

 

 

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  1. 編集部

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