もう1つ、NHKに対する「偏向批判」についても国谷さんは実に興味深いことを仰っています。
〈国谷 私は長いあいだ、報道における公平公正のありかた自体が問題になったという経験をしないできました。『クローズアップ現代』で気を付けていたのは、あるテーマにおいて今日は私たちはこのテーマをこの角度、この視点からお伝えいたします、とスタンスを明確にすることでした。(中略)
『クローズアップ現代』では(中略)あるテーマに関して1つの視点にフォーカスして制作することも多かったのですが、他の番組では別の視点で同じテーマを扱うこともあるわけです。
ですからNHK総合テレビというチャンネル全体では多様な放送がなされてバランスは取れているという考え方の中で長年番組に関わってきました。それに対してNHKの内部から何かを言われたり、外部から指摘を受けるというような経験は私自身にはありませんでした。
ところが私が番組を離れる2、3年前ごろから、ひとつの番組の中でも賛成・反対の意見、それぞれを公平に伝えるべきだという風が外から吹き始め、NHK内部の空気にも変化が起きてきました〉
これはなかなか貴重な見解です。NHKのノンフィクション・報道番組は、ともすれば「偏っている」とされる意見の取り上げ方、歴史の描き方をすることがある。近年ではネットを中心に、番組内容が検証され、批判されることも少なくありません。
一方、NHK内部では、2014年頃までは、仮にどこかの時間帯である視点に偏った番組を作っても、別の番組で補えばバランスが取れている、と理解されていたというのです。
確かに1番組の中で完全に公平性を保つのは難しいかもしれませんが、視聴者は1日中、NHKを見ているわけではない。「局トータルでプラマイゼロ、バランス取ってます」とする説明に、皆さんは納得できますか?
【本書の「気になるポイント」】
何より驚いたのは、この本の版元が「文藝春秋」だということです。