トルーマン、アイゼンハワー、ケネディなど、戦後の米国の歴代大統領が民主主義、自由主義の大義名分を掲げ、颯爽(さっそう)と先頭を切って走った時代はどこへ去ってしまったか。
小国ウクライナが大国ロシアの大軍10万人以上によって侵略を受けているにもかかわらず、バイデン米大統領はウクライナ周辺の北大西洋条約機構(NATO)加盟国に限定的な派兵をした以外に、経済制裁措置によるロシア締め上げに力を入れるだけで、ウクライナには米兵を1人も投入しない方針だ。
仮にウクライナがロシアに占領されたり、ゲリラ戦の泥沼にはまったりしたら、国際秩序維持のうえで米国が果たすべき役割にこれまで以上の疑問符が付けられよう。
直接軍事介入をためらう米国
米国がウクライナ問題で内向き志向になった理由の第一は、トランプ前政権で明らかになった自国の狭い国益中心の「アメリカ・ファースト」の考え方が、対立の著しい民主、共和両党にさえ共有されているという事実であろう。
第二に、核兵器の使用もあり得るとほのめかすプーチン・ロシア大統領の恫喝(どうかつ)には慎重に対処せざるを得ない。米国民の間に、第3次世界大戦の引き金になるような危険な対立を回避したいとの感情が行き渡っている。
第三は、米国にとっての最大の敵である中国に対応するために構築したアジア重視の戦略である。今の米国にはアジアと欧州の両方に同時に戦線を設定する軍事的能力はない。また、アジア重視の戦略を軽々と欧州重視に再転換することは不可能である。
自由を求め、民主主義国家への一歩を踏み出した、愛国心に燃えるウクライナ人への同情心は西側諸国の間で拡大しつつある。ウクライナに侵攻したプーチン大統領の判断は最初から誤りだったといってよかろう。バイデン大統領の下で各国がこぞって経済制裁を実施しているのは、米国の指導力だけでは説明できない。制裁の返り血を浴びるかも知れないが、効果は次々に明らかになるだろう。
ロシア国内の反政府・反戦運動とも連動して、プーチン大統領の独裁を揺るがす事態に発展しないかどうか。「プーチンの終わりの始まり」(フォーリン・アフェアーズ誌)との見方も生まれている。
露軍侵攻に敏感に反応した欧州
複雑この上ない国際情勢の中で、日本の立ち位置はどう考えたらいいか。戦後、軍事忌避の傾向が強かったドイツは、ロシアの侵攻後、直ちに国防費をNATOの基準である国民総生産(GDP)の2%に引き上げるなど、国防政策の大転換に踏み切った。永世中立国スイスのほか、スウェーデン、フィンランド、ノルウェーなども、ウクライナへの武器供与を断行した。沈滞気味の米国を支える欧州諸国は、ロシアが引き起こした安全保障上の危機に敏感に反応して立ち上がった。
極東においてロシアの近隣に位置し、しかも、今回の戦争を不気味に静観している中国の脅威に直面しているはずの日本は、どうしているのか。ドイツに比べて鈍感だと笑い話で済むことではない。(2022.03.14 国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)