中国共産党「100年の秘密兵器」|石平

中国共産党「100年の秘密兵器」|石平

結党当時、党員数五十数名しかいない弱小政党だった中国共産党はいかにして勢力を拡大し暴力による政権奪取をはたしたのか。我々日本国民全員が、中国共産党という極悪政党の伝統的浸透工作の正体を正しく認識する必要がある。


1924年はじめから、コミンテルンの斡旋下で多くの中共幹部が共産党員のまま国民党に入党し、国民党組織の要職を占める。たとえば、中共幹部の譚平山は国民党中央組織部長に就き、国民党の組織を牛耳る。同じ中共幹部の林伯渠は国民党中央農民部部長に、もう一人、結党当時からの中共幹部で有名な毛沢東は、国民党中央宣伝部部長代行・部長を歴任した。  

一方、中共は国民党が創建した国民革命軍への浸透を進めた。当時、孫文は軍幹部を養成する軍学校「黄埔軍官学校」を広州郊外に創設。かの有名な周恩来は、中共がこの黄埔軍官学校に送り込み、要職である政治部主任に就かせた人物である。この時、周恩来は、ソ連でスパイ訓練を受けて帰国したばかりだ。  

以来、周恩来は政治部主任の立場を最大限利用し、共産党員を外部から招き入れて軍学校に潜入させたり、軍学校の教官と生徒を対象に共産党への入党を勧誘するなど浸透工作を着々と進めた。  

その結果、軍学校の上層部には周恩来以外に共産党幹部の聶栄臻と葉剣英の両名が入り込み、第一期生から第四期生までの全校生徒にも「隠れ共産党員」が急増する。それらの生徒は卒業後、国民党軍の幹部となって国民党軍内の共産党勢力となった。

極悪政党の伝統

1927年、孫文亡きあとの国民党はやがて共産党の浸透工作に危機感を覚え共産党の排除を始めるが、それに対抗して中共は自前の軍隊を作り、蜂起を決意。同年8月1日、周恩来と国民党中央組織部長の譚平山が中心となって、国民党軍内に入り込んだ軍学校卒業生を糾合し、国民党軍の一部をそのまま乗っ取った形で国民党に対する武装蜂起を起こす。  

この8月1日は共産党軍の建軍記念日にされているが、考えてみれば何のことはない。共産党軍の「建軍」は、国民党軍に対する乗っ取り工作の結果にすぎない。  

こうして建軍した共産党軍は以来、反乱勢力として国民党政府軍と内戦を戦い、やがて政権奪取を果たすが、そのプロセスにおいて中共はまた、国民党政府軍の中枢部に対して日本人の想像を遥かに超えた浸透工作を展開し、共産党軍を内戦の勝利へと導く(この辺りの経緯は筆者の最新刊『中国共産党 暗黒の百年史』《小社刊》の第一章に詳述)。  

敵対する勢力のなかに深く入り込んでその組織を乗っ取る手法は、まさに中国共産党結党以来の伝統であって、彼らの勢力拡大の一番の「秘密兵器」であることがよく分かる。そして、共産党政権はいまもこの「秘密兵器」を巧みに用いており、欧米や日本といった自由主義陣営の国々が彼らの浸透工作の主な標的となっている。日本で中国の人権侵害を非難する国会決議が潰された理由は、まさにここにあるのかもしれない。  

中国共産党結党100周年に際し、われわれ日本国民全員が、中共という極悪政党の伝統的浸透工作の正体を正しく認識し、警戒を強めていかなければならないのである。(初出:月刊『Hanada』2021年9月号)

石平

https://hanada-plus.jp/articles/195

評論家。1962年、四川省生まれ。北京大学哲学部を卒業後、四川大学哲学部講師を経て、88年に来日。95年、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。2002年『なぜ中国人は日本人を憎むのか』(PHP研究所)刊行以来、日中・中国問題を中心とした評論活動に入る。07年に日本国籍を取得。08年拓殖大学客員教授に就任。14年『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞を受賞。著書に『韓民族こそ歴史の加害者である』(飛鳥新社)など多数。

関連する投稿


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


プーチンは「内部」から崩れるかもしれない|石井英俊

プーチンは「内部」から崩れるかもしれない|石井英俊

ウクライナ戦争が引き起こす大規模な地殻変動の可能性。報じられない「ロシアの民族問題というマグマ」が一気に吹き出した時、“選挙圧勝”のプーチンはそれを力でねじ伏せることができるだろうか。


ナワリヌイの死、トランプ「謎の投稿」を解読【ほぼトラ通信2】|石井陽子

ナワリヌイの死、トランプ「謎の投稿」を解読【ほぼトラ通信2】|石井陽子

「ナワリヌイはプーチンによって暗殺された」――誰もが即座に思い、世界中で非難の声があがったが、次期米大統領最有力者のあの男は違った。日本では報じられない米大統領選の深層!


「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

トランプ前大統領の〝盟友〟、安倍晋三元総理大臣はもういない。「トランプ大統領復帰」で日本は、東アジアは、ウクライナは、中東は、どうなるのか?


自衛隊員靖国参拝で防衛省内に共産党の内通者|松崎いたる

自衛隊員靖国参拝で防衛省内に共産党の内通者|松崎いたる

自衛隊員の靖国参拝の情報を赤旗と毎日新聞にリークした者を突き止めようとする防衛省と、防衛省内にいる内通者を守ろうとする共産党――事の本質は安全保障に直結する深刻な問題だった。


最新の投稿


【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

チマチマした少子化対策では、我が国の人口は将来半減する。1子あたり1000万円給付といった思い切った多子化政策を実現し、最低でも8000万人台の人口規模を維持せよ!(サムネイルは首相官邸HPより)


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


改正入管法で、不法滞在者を大幅に減らす!|和田政宗

改正入管法で、不法滞在者を大幅に減らす!|和田政宗

参院法務委員会筆頭理事として、改正入管法の早期施行を法務省に働きかけてきた。しかしながら、改正入管法成立前から私に対する事実無根の攻撃が始まった――。