現在、揚子江の三峡ダムは、中国のアキレス腱となっている。ダムは湖北省宜昌市に位置する世界最大の水力発電所で、1993年着工、2009年完成した。着工から完成に至るまでの間に、そのダムの寿命がなぜか1000年から100年に短縮されている。完成間際には、10年もてば良いと言われるようになった。
2019年、「Google Earth」では、三峡ダムは歪んでいるように見えた。そこで、ダムはいつ崩落するかわからないと囁かれ始めた。その後、台湾の中央大学研究員が、ダムの防護石陥没を発見している。
中国当局は、長江へ大量の雨水が流れ込むたびに、三峡ダムの崩壊を恐れ、上流の小さなダムを決壊させている。そのため、四川省および重慶市ではしばしば大洪水が起きている。
仮に、「中台戦争」が勃発すれば、台湾はすぐさま射程1500キロメートルの中距離ミサイルで、三峡ダムを狙うに違いない(台湾島から三峡ダムまで約1100キロメートル)。
台湾がミサイルで三峡ダムを破壊すれば、中国経済に決定的ダメージを与えるだろう(ダム下流の経済は中国全体の40%以上を占める)。もしダムが決壊すれば、下流に位置する武漢市、南京市、上海市は壊滅するかもしれない。また、ダム下流の穀物地帯は広範囲に浸水し、ひょっとして、中国は食糧危機に陥るおそれもある。
このようなアキレス腱を抱えたまま、中国共産党が「中台戦争」を敢行するとは考えにくい。
「中台戦争」が勃発する3つのケース
万が一、中国軍が「台湾侵攻」に踏み切る場合、3つのケース(地域)が考えられる(おそらく、中国は3地域いっぺんに攻撃することはないだろう)。
第1に、中国軍が南シナ海の南沙諸島にある太平島・中洲島を攻撃する。この場合、民進党(本土派)の蔡英文政権が、太平島・中洲島を守るのだろうか。一応、台湾が両島を実効支配しているので、とりあえず防衛を試みるかもしれない。
第2に、中国軍が福建省の一部、馬祖・金門を攻撃する。馬祖・金門については、現時点で、「本土派」の蔡政権は死守する公算はある。だが、最終的に、民進党政権は馬祖・金門を中国に明け渡す可能性を捨てきれない。そして、中華民国から馬祖・金門を切り離した後、「台湾共和国」の樹立を目指すというシナリオもあるのではないか。
第3に、中国軍が澎湖島を含む台湾本島を攻撃する。この場合、台湾軍は死に物狂いで郷土を守ろうとするだろう。いくら現代戦はミサイル等のハイテク兵器が勝敗を決すると言っても、最後は”精神力”がモノをいうのではないだろうか。
他方、多くの人民解放軍兵士は自分とは直接関係のない台湾を真剣に「解放」しようと考えていないはずである。大半の兵士は如何に生き延びるかしか関心がないと思われる。
合理的判断ができない共産党トップと偶発的事故
結論として、中国共産党幹部が“合理的判断”をする限り、「台湾侵攻」を決行する可能性は著しく低い。中国の「台湾侵攻」(=「中台戦争」)は即、「米中戦争」となるからである。中国はサイバー戦争・宇宙戦争は別にして、米国との従来型の戦闘・戦争は望んでいないのではないか。
ただし、共産党トップが、“合理的判断”ができない場合、「中台戦争」の勃発する可能性を排除できない。
その他、中台間の偶発的事故(どちらかがミサイルを誤射する、戦闘機が敵機を打ち落とす等)によって、「中台戦争」が勃発する事はあり得るだろう。