岸田総理は「新しい資本主義」を訴え、成長と分配の好循環を掲げている。分厚い中間層の再構築についても総選挙の公約に掲げている。あとは、具体的に何をするかである。国民の期待は、積極的な財政出動であり、必要な金融緩和による経済のV字回復である。総選挙において具体的な規模感や内容を示していかなくてはならない。
こうした動きに対し、不安材料がいくつかある。まず、財務省の矢野康治事務次官が『文藝春秋』11月号に寄稿した論文である。矢野次官は積極的な財政出動論について、「まるで国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかり」と批判し、「このままでは国家財政は破綻する」としている。これは、安倍総理、菅総理が財務省に強力な指導力を発揮していたことに対し、その重しが外れたことで、「今だ」ということでの寄稿であるとみられる。
財政再建の必要性を強く印象付けようという内容であるが、経済が成長すれば税収も増えるわけで、自ずから財政再建は成し遂げられていく。それがアベノミクスからの流れであり、岸田総理も所信表明演説で、「危機に対する必要な財政支出は躊躇なく行う。経済あっての財政であり、順番を間違えてはならない」と述べている。今は、国民の暮らしを支え、経済の反転攻勢のために積極的な財政出動が必要である。この流れを止めてはならない。
そして、もうひとつの不安材料は、岸田総理の所信表明演説に「改革」や「規制改革」の文言がひとつもなかったことである。安倍政権、菅政権の一丁目一番地の政策が、規制改革であった。昨年の菅総理の所信表明演説では、「行政の縦割り、既得権益、そして、悪しき前例主義を打破し、規制改革を全力で進める」「国民のために働く内閣として改革を実現し、新しい時代をつくり上げる」と規制改革の断行を力強く宣言した。
規制改革は経済の弾力性と成長をもたらし、経済に対する国民の将来展望に期待感を持たせるものであり、国家戦略特区の活用などで、実際に効果を上げてきた。しかし、岸田総理の所信表明演説でこうした文言がなかったことなどから、株式市場が反応した。規制改革は経済全体の将来展望への期待のみならず、規制緩和が期待される分野の銘柄への期待感に繋がることから、株式市場へ好影響を与えることが多い。
金融所得課税への警戒感や、規制改革への言及がなかったことで岸田総理の新総裁選出以降、日経平均株価が8営業日連続で下落したことをはじめ、株式市場は厳しい状況が続いている。これに対し、岸田総理は金融所得課税については当面行わないことを表明し、今週の国会における各党の代表質問に対する答弁でも、電波オークションの引き続きの検討に言及するなど、規制改革についても菅政権からの継続性に言及した。岸田政権は、こうした不安材料を断ち切り、国民にわかりやすく説明することが重要である。
いずれにしても総選挙を勝ち切り、引き続き政権を担えなければ元の木阿弥である。自民党がしっかりと勝利することが国家国民のためになると確信している。党所属の参議院議員として精一杯総選挙を支援したい。
著者略歴
1974年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業(日本外交史)。1997年、アナウンサーとしてNHKへ入局。新潟局、帯広放送局、大阪放送局を経て、2009年7月より仙台放送局に勤務。東日本大震災の報道や取材に携わる。2013年、第23回参議院議員選挙において、宮城県選挙区で初当選。2019年、全国比例区で再選。現在、参議院自民党国会対策副委員長。