国有製薬会社のワクチンでも危険
だが、こうした悪質な偽ワクチンの問題だけでなく、「中国のワクチン自体が本当に信頼できるのだろうか」という問題は、中国人自身も気にしているところだ。
実際に、立派な国有製薬会社でつくられているワクチンですら、製造過程でデータが改竄されたり、あるいは使用期限切れのワクチンを横流しするような問題や、輸送や温度管理上劣化した低品質ワクチンを幼児に接種したりする事件が繰り返されてきた。
比較的最近の事件として有名なのは、長春長生生物科技、武漢生物科技などが製造した三種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)の劣化ワクチン65万本(長生25万本、武漢40万本)が出荷され、35万人以上の子供たちに接種されてしまった2018年の劣化ワクチン問題だ。
これは最初、人用狂犬病予防ワクチンの製造過程でデータの改竄があったことが内部告発されて、その調査の延長で、三種混合ワクチンでも製造過程に不正があったことが判明したのだった。
失脚した「ワクチンの女王」
また、武漢生物科技のワクチンは不良反応を引き起こしたとして、被害者から二度ほど賠償請求裁判を起こされ、17・5万ドル相当の賠償金を支払ったこともある。さらには、少なくとも三度にわたり地方の疾病予防コントロールセンターの官僚たちに、ワクチン購入に対する謝礼という名の賄賂を支払っていたことも暴かれている。
2018年に中国社会を揺るがした三種混合劣化ワクチン問題は、ワクチンの女王と呼ばれた長春長生生物科技の会長の高俊芳が汚職で失脚し、上場取り消し、破産という形で一件落着となったが、では中国のワクチン市場の構造的問題が完全に是正されたかというと、そうではない。
三種混合ワクチン事件のもう一つの当事企業、武漢生物科技は、問題が起きたのち罰金などの行政処分を受けたが、中国の最大国製薬有企業シノファーム傘下企業とあって、ほとんどそのままの体制で生き延び、武漢生物製品研究所として、新型コロナの不活化ワクチン開発、製造に参加している。シノファームの不活化ワクチンは、主にこの企業が製造したものだ。