スキャンダルの前科
ニューヨーク・タイムズなどが、このあたりのワクチン問題について特集記事で取り上げていたので参考にして紹介すると、不活化ワクチン・コロナバックを製造しているシノバック・バイオテックも、スキャンダルの前科がある。
2002年から2014年にかけて、医薬品認可担当の官僚に5万ドル近い賄賂を贈り、不正に医薬品認可を受けていたことが、かつて暴露された。当時の総経理は北京大学教授の尹衛東だが、処罰されることなく、現在、同企業のCEOに出世している。
シノバックは、北京科興ホールディングスと北京大学未名生物工程集団が合資で創ったバイオハイテク企業で、尹衛東は中国バイオ研究の権威であり、国家八六三計画(中国のハイテク発展計画)バイオ領域の審査委員でもある。
人民日報など中国国内報道によれば、中国は新型コロナ肺炎ワクチンに関する煩雑な手続きをできるだけ削減して、すべての資源を製薬企業に投じているという。その投資の規模と中国的な規制の甘さで、これら企業のワクチン開発のスピード感は米国や英国を超える勢いだ。
だが、それが中国ワクチン業界の伝統的な傲慢さや汚職体質を悪化させるのではないか、と危ぶまれているのだ。
中国のワクチンはおよそ16種類が研究開発中で、そのうちシノファームの不活化ワクチン、シノバックの不活化ワクチン「コロナバック」、解放軍との協力によるカンシノ・バイオロジクスのアデノウイルス5ベクターワクチン「Ad5-nCoV」の三つが、すでに国内外で接種が開始されている。
コロナバックは2週間の間隔をあけて2回接種が必要で、ブラジルで行われた第三フェーズ臨床12000人の18歳以上の医療従事者への接種についてシノバックが公表した統計分析によれば、医療措置が必要ない軽症者を含むすべての新型コロナ感染に対する有効予防率は50・65%、医療措置が必要な感染に対する予防率が83・7%、重症化・死亡予防率は100%だったという。
予防率50・4%と大幅修正
1月はじめには中間予防率は78%と発表されていた。ただ、その1週間後、治験を行った側のブラジル当局が予防率50・4%と大幅に修正する数字を公表し、コロナバックに対する信頼性が一気に落ちる事態になった。
ブラジル側は治験中に死者が出て、治験自体を一時延期したことがあった。結局、976万人以上の感染者を出しているブラジル当局は中国ワクチンへの不平や不信を言いながらも、1月下旬からコロナバックを、英国のアストラゼネカのアデノウイルスワクチン・コビシールドともに緊急使用を承認、接種が始まっている。800万回分のうち600万回分がコロナバックだ。
コロナバックの予防率が50・4%だとすると、WHOが定義するワクチンの基準50%の予防率からみて、ぎりぎりワクチンとして認められる品質レベル。
だが、ファイザーやモデルナなどのmRNAワクチンは、保管温度がマイナス70度からマイナス20度と不活化ワクチンやアデノウイルスベクターワクチンよりよっぽど取り扱いが難しく、また振動にも弱いとされるので、アフリカや東南アジア方面に流通させることは土台無理なのだ。なによりも値段も高価で、世界中の先進国で争奪戦になっている。
なので、途上国に配布するならば、たとえ予防率が50%ちょっとでも、値段、供給量の面からみてコロナバックが手ごろ、ということになる。
ちなみにシノファームの不活化ワクチンは、アラブ首長国連邦における第三フェーズ治験の昨年12月に発表された中間報告で、中間予防率86%と公表されている。ペルーでは、シノファームワクチンでやはり深刻な副作用が報告され、一度治験を中断している。
中国はこの二種の安価で扱いやすい量産できるワクチンをもって、一帯一路沿線国を中心にワクチン外交を展開しようと考えている。