ミネラルウォーターをワクチンと称して
中国製新型コロナワクチンの途上国への無償提供品が2月から続々と現地に到着し、いよいよ中国のワクチン外交がスタートしようというなか、中国では偽ワクチンが押収される事件が起きた。
偽ワクチン、低品質ワクチンは、中国においては伝統的といってもいいくらいの社会問題だ。また、第三フェーズ臨床実験のデータの詳細が公表されておらず、その効果や信頼性に疑問を持つ声も少なくない。
一方、WHOやGaviワクチンアライアンス、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)が主導するワクチン共同購入による途上国への公平分配プラットフォーム、COVAXが機能するには、目下、安価で温度管理のたやすい中国製ワクチンに頼らざるを得ない状況だ。
パンデミックを終息させることができるか否かはワクチン次第。そして、ワクチンを制する国がポストコロナの国際社会の新たな枠組みの基軸となる、という見通しもあるなか、中国のワクチンは単に医療や健康の問題以上に、政治や安全保障のテーマとしても気になるところだ。
中国外交部は2月1日に、中国最初の対外無償援助による新型コロナワクチンがパキスタンに到着したと発表したのだが、この同日、中国公安部は、江蘇省などでニセ新型コロナワクチン販売事件摘発を発表し、中国の新型コロナワクチン外交に水を差すかっこうになった。
新華社によれば、生理食塩水をシノファームの新型コロナワクチンと偽って、注射針とセットで、江蘇省、山東省、北京などで販売していたという。当局は3000回分の偽ワクチンを押収したほか、製造、販売にかかわった80人余りを逮捕している。
また2月11日には、ミネラルウォーターをワクチンと称して、香港や海外に販売していたケースも摘発されたと報じられている。こちらは生理食塩水ワクチンより悪質。こんなものを打てば細菌感染などの問題が生じて命の危険もあるとして、中国当局も警告を発している。
在日中国人を通じて未承認の中国ワクチンを
いずれも同一主犯の組織犯罪で、2020年9月から生理食塩水などをワクチンと偽って販売したところ、飛ぶように売れた。それで生理食塩水が足りなくなったので、ミネラルウォーターで代用したという。
この組織の摘発は昨年11月から始まったが、すでに5万8000回分の偽ワクチンを製造販売し、1800万元の違法利益をあげていた。
こうした低レベルの偽ワクチンは微信などSNSを通じて売られていることが多く、包装も本物とまったく同じ、製造ナンバーももっともらしく打っているので、まず外見からは判別がつかない。
しかも1回分498元とかなり高価だ。本物のワクチンの通常価格は200元。これは、中国が自国製造ワクチンをワクチン外交に優先利用するために国内には十分に回ってこないという「ウワサ」に踊らされて慌てて買おうとする人が多い、という背景もある。
ちなみに、日本向けにもこうした中国製低レベル偽ワクチンがダークウェブを通じて売られる危険性について、共同通信などが情報セキュリティ企業S&J社長らの取材をもとに報じている。
中国科学院武漢ウイルス研究所の科学者チームの組織を名乗り、「中国には他国に分けないワクチンがあるが、我々を通せば融通できる」 「ワクチンの売り上げは寄付する」などと騙り、値段はビットコインで約7000円だとか。
また、毎日新聞が報じていたところでは、「特別ルート」で在日中国人を通じて、企業トップや政界に通じる人物たち少なくとも18人に未承認の中国製ワクチンの接種を行っていたことが判明している。この在日中国人は、共産党幹部の知り合いから、日本に中国製ワクチンが受け入れられる下地を作るために協力を依頼されたとか。
近年、中国人資本家らが中国人医療ツーリズム受け入れ施設を確保するために、日本の病院に出資したり、あるいは買収したり、ビジネスを持ち掛けたりする動きがある。こうした中国と関係の深いクリニックを通じて、中国としては日本で中国製ワクチン支持を広めたいようだ。