今も洗脳は続いている!幻の抑留者洗脳紙「日本新聞」を読み解く|早坂隆

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シベリア抑留者に対して、共産主義思想を浸透させるために配布された「日本新聞」。第一級の史料である同紙の謎多き実態を明らかにすると同時に、その後の日本社会に波及した影響についても考察を加えていく。 日本新聞の「亡霊」は令和の時代になっても決して消えてはいない。


北朝鮮の誕生を大々的に祝す

1948年2月5日発行の第373号には、中国の毛沢東に関する特集が組まれている。当時、中国は第二次国共内戦下にあり、共産党軍が形勢を優位に進めている状況であった。毛沢東の写真とともに「中国解放の旗すすむ」 「勝利の日いまぞ近づけり」 「共産党の指導の下に 民族統一戦線は強化」といった言葉が並ぶ。同紙ではその後も、中国共産党を礼賛する記事が頻繁に掲載されていく。

5月1日発行の第412号からは、題字が「日本新聞」から「日本しんぶん」に変更された。ただし、紙面の路線に大きな変化は見られない。  

9月18日発行の第472号の1面トップは「朝鮮民主人民共和国成立」の大見出し。同月9日に建国された北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の誕生を大々的に祝す内容である。1面には金日成の肖像画が掲載され、2面には以下のような記事が綴られている。

〈朝鮮を二分するにいたったアメリカ帝国主義者とその手先たる朝鮮反動に抗する闘争の途に断乎たちあがったのである〉 〈すでに根本的な民主的諸改革が実施され、言論、出版、集会、結社の自由が存する北鮮〉  

北朝鮮のその後の歩みを知る私たちには、歴史の冷酷さを物語る記事にも映る。  

1949年1月1日には、第517号が発行。「レーニン・スターリンの旗の下に 勝利を確信し躍進せよ!」 「"われらのスターリンのために"誓いをこめて勝利の祝杯を!」といった見出しが並んでいる。  

3月26日発行の第553号には「売国奴ヨシダ打倒人民大会」との見出しで、当時の吉田茂内閣を打倒するためのデモが東京で行われた旨を伝えている。「ヨシダ即時退陣を決議」「国会取りまくデモ」などと記されているが、首相をカタカナで表記する手法は、近年でも見覚えがあるであろう。安倍晋三前首相のことを「アベ」と表し、国会前でデモを繰り返していた人々がいたことはいまだ記憶に新しい。前章の引用部のなかにも昭和天皇を「ヒロヒト」と表していたものがあったが、この「カタカナ表記」というのは極左勢力の伝統芸と言える。

731部隊にも言及

最終号は1949年12月30日に発行された第662号。その内容は同月25日から始まった「ハバロフスク裁判」の内容を伝えるものであった。同裁判は旧日本軍に対する軍事裁判で、日本の対ソ攻撃や731部隊のことなどに関する法廷である。結局、被告人たちはいずれも有期刑の判決を受けることになるが、同紙面には「正義の法廷開かる」「凶悪なる人類の敵ども」といった見出しのもと、こう記されている。

〈凶悪な殺人鬼の徒党たる日本支配層および軍閥一味は、細菌武器によって、中国、朝鮮、ソ同盟の無この平和な住民を幾百万となく殺戮せんと準備したのである〉

〈第七三一部隊その他において、彼らは犯罪的人体実験を実施し、日本諜報機関の血まみれの手に捕えられたロシア人、朝鮮人、中国人、蒙古人愛国者三千名以上をかかる手段によってもん死せしめた〉  

731部隊とは、大東亜戦争下に存在した日本の研究機関の一つで、正式名称は「関東軍防疫給水部本部」という。彼らの主要な任務は、兵士の感染症予防や、衛生的な給水体制の確立を研究することであり、ノモンハン事件の際には的確な給水支援や衛生指導により、多くの人命を救った。ただし、これらの任務と並行して、細菌戦などを意識した生物兵器に関する研究を進めていたのは事実である。だが、ソ連側が一方的に主張する「三千名以上もの殺害」を裏付ける歴史的証拠などは、いまだ示されていない。

いまに続く日本新聞の亡霊

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