それを裏付ける動きが米国内で表面化してきた。リーバー教授を逮捕する2カ月前の2019年11月のことだ。米連邦議会は「中国の千人計画は脅威である」との報告書を公表した。上院の国土安全保障小委員会(共和党のロブ・ポートマン委員長、オハイオ州選出)が超党派でまとめた。FBI、全米科学財団(NSF)、NIH(米国立衛生研究所)、エネルギー省、国務省、商務省のほか、ホワイトハウス科学技術政策室の7つの組織を対象に、8カ月かけて調査したものだ。
報告書はまず、こう指摘した。
「中国の国外で研究を行っている研究者らを中国政府が募集する人材募集プログラムにより、米政府の研究資金と民間部門の技術が中国の軍事力と経済力を強化するために使われており、その対策は遅れている」
具体的には、中国は2050年までに科学技術における世界のリーダーになることを目指しており、中国政府は1990年代後半から、海外の研究者を募集して国内の研究を促進。そのなかで最も有名なのが、千人計画だとしている。報告書は千人計画について、2008年に始まり、2017年までに7000人の研究者を集め、ボーナスや諸手当や研究資金が用意されたと指摘している。
問題なのは、契約内容だ。ポートマン上院議員によると、契約書は千人計画に参加する科学者に対し、中国のために働くこと、契約を秘密にし、ポスドクを募集し、スポンサーになる中国の研究機関にすべての知的財産権を譲り渡すことを求めているという。契約書はまた、科学者たちが米国で行っている研究を忠実にまねた「影の研究室」を中国に設立することを奨励しているという。
研究所から3万件の電子ファイルを持ち去る売国奴
NIHのマイケル・ラウアー副所長は連邦議会の公聴会で、「中国は『影の研究室』のおかげで、米国で何が進んでいるかを世界に先駆けて知ることができる。NIHが『影の研究室』の存在を米国の他の研究機関に(警戒を促すために)知らせると驚かれる。多くの研究機関は、職員が中国に研究室を持っていることを知らなかった」と証言している(ネイチャー・アジア・コム日本語版)。
エネルギー省の調査では、NIHに所属していたあるポスドク研究員は、千人計画に選ばれて中国で教授職を得、中国に戻る前にこの研究所から3万件の電子ファイルを持ち去ったという。
幸い、機密扱いではなかったためにNIHにとって致命傷とはならなかったようだが、エネルギー省は研究員の行為自体を悪質な事案として重大視している。エネルギー省自身も、議会報告書が公表される前の2019年6月、省内の研究者の千人計画への参加を禁止した。
NIHの研究員は、中国の研究機関に対し、米国での自分の研究分野は高度な防衛力を持つために重要なものだと売り込み、中国の防衛力の近代化を支援する研究を計画していたという。金に釣られて仲間を売る人間はどこの国にでもいるからいまさら驚かないが、それにしても、売国奴という3文字以外に当てはまる言葉が見つからない。
FBI副部長「すぐにでも行動を起こすべきである」
ポートマン氏は、こうした中国の千人計画に対し、FBIや米研究機関の対応は非常に遅く、米国の研究を守るための取り組みを強化しなければならない、と指摘している。
報告書はまた、「千人計画に参加している研究者には、契約条件などを完全な形で開示しなければ、米国の研究資金を得られないようにすべきだ」などと提言し、何らかの立法措置が必要とも指摘した。
米国大学協会(ワシントンDC)のトビン・スミス政策担当副会長は、「報告書は、人材募集プログラムの契約内容を徹底的に調べることで、この問題を生々しく伝えている。大学教員たちはこの報告書をよく読み、千人計画に加わる危険性に注意しなければならない」と話している。
FBIのジョン・ブラウン副部長は、「千人計画に参加した科学者たちのすべてが古典的なスパイだとは言えないが、中国から情報提供を求められているのも事実であり、違法性がある。防諜の観点からもっと早く対処策を講じなければならず、米政府や研究機関はすぐにでも行動を起こすべきである」としている。
これより前、米連邦議会は2018年6月にも、千人計画に関する報告書を公表している。米政府組織の貿易・製造政策局による「中国の経済的侵略が、どのように米国と世界の技術と知的財産を脅かしているか」と題するレポートだ。
それによると、米国が大規模に投資して得たハイテク産業や知的財産について、中国は物理的、あるいはサイバー攻撃で盗み、技術移転を強要するなどして不正入手しているという。被害対象の技術分野は、中国が掲げる中国製造2025に明記されたAI、航空宇宙、仮想現実(VR)、高速鉄道、新エネルギー自動車産業など多分野にわたる。