日本で報じられない米捜査当局の重大な動き
アーカンソー大はこの教授を停職処分としたうえで、FBIの捜査に協力している。教授は同大学で1988年から教鞭をとり、電気工学系の高密度エレクトロニクスセンター所長を務めていた。
南部ジョージア州アトランタの名門、エモリー大学の中国系米国人学者も千人計画に参加し、米当局に申告詐欺罪で起訴された。この学者は過去六年間、中国の複数の大学で千人計画関連のプロジェクトに参加していた。中国当局からの資金提供とみられる学者の海外収入は五十万ドル(約5370万円)に上ったにもかかわらず、申告せずに虚偽報告をしていた。学者は執行猶予1年、35000ドルの罰金刑となった。
散発的な強制捜査のせいもあるのだろう。日本ではほとんど報じられていないが、米捜査当局が千人計画絡みで取り締まりを強化し始めていることを示す重大な動きである。一つひとつの事件をたどっていくと、背後にハイテクや学術分野で米国としのぎを削る中国への米当局の警戒感が色濃く浮かんでくる。
知的財産を頭脳ごと盗み出す
中国は建国100年に当たる2049年を目標に、製造強国となってハイテク分野で世界の覇権を握ることを狙っている。そのために手っ取り早く、米国の知的財産を頭脳ごと盗み出そうというのが千人計画であることは書いてきたとおりだ。
中国は2016年3月、中国共産党の第13次5カ年計画(16~20年)に「軍民のより深い融合の推進」を掲げ、7月に発表した軍民融合戦略に関する方針に「科学技術・経済・軍事において機先を制して有利な地位を占め、将来の戦争の主導権を奪取する」と明記した。
17年1月には、習近平国家主席がトップの中央軍民融合発展委員会を設立して、中国軍の近代化を図っている。軍民融合戦略の方針にあるとおり、中国にとって、軍事と民間には境がないどころか、表裏一体であるという事実を押えておかねばならない。
そこで中国が目をつけたのが、陸・海・空という従来の戦闘空間に加え、宇宙、サイバー、第5世代(5G)移動通信システム、AI(人工知能)といった領域だ。米国に勝利するため、革新的技術を持つ博士クラスの「高度人材」の獲得に躍起となっていく。
千人計画と同様、米国を刺激することを避けるため、中国がその存在を伏せるようになったハイテク産業戦略「中国製造2025」は、千人計画の数年後に始まった。優秀な人材の確保に一定のめどがついたことから起案されたとみられ、千人計画と中国製造2025が連動していることが分かる。
実際、中国当局は2014年、08年から始めた千人計画の成果として「中国製造2025」で示したようなハイテク産業で「多くの中国独自の製品を生み出した」とし、核技術、有人宇宙飛行、有人潜水艇、北斗衛星ナビシステムなど軍需産業などの分野で、「技術的難関を突破した」とアピールしている。
米国はまさに、その両方に神経を尖らせているが、これこそ、米中貿易戦争の裏側で繰り広げられている情報戦の実態なのである。