武漢と深い関わり
リーバー教授はペンシルベニア州フィラデルフィア出身。スタンフォード大学博士課程を修了し、2015年からハーバード大で化学・化学生物学学部長を務めていた。400本を超える論文を共同で執筆している。
リーバー教授の起訴が米国内外に波紋を広げたのは、武漢理工大での論文作成にみられるように、新型コロナウイルスが発生した武漢と深い関わりがあったためだ。教授が逮捕されたのが、中国・武漢市が都市封鎖(ロックダウン)されたのとほぼ同じ時期だったことも注目を集めた。新型コロナウイルスが生物兵器である、との噂が公然と語られ始めた時期と重なっていたからだ。
まず浮上したのが、リーバー教授が武漢で発生した新型コロナウイルスを中国に売却したのではないかという疑惑だ。ファクト・チェックで知られる米サイト「スノープス」によると、リーバー教授は、2011年から武漢理工大で特別招聘教授を兼任していた。
このため、リーバー教授が関わったとは言わないまでも、新型コロナウイルスが人工的に造られた生物兵器ではないかとの憶測が広がり始めた。
だが、スノープスは、リーバー教授への強制捜査と新型コロナウイルスの関係について「証拠はどこにもない」と否定し、起訴されたのはあくまでも米政府への申告義務を怠った収入面での経済的な理由と学術面での不当な情報持ち出しが理由である、との見方を示している。
人民解放軍が「学生」と偽り
ハーバード大のある米北東部のボストン市周辺では、このほかにも大学関係の中国人2人が虚偽申告などの罪に問われている。マサチューセッツ州連邦地検の検事が2020年1月28日の記者会見で発表したところによると、ボストン大学でロボット工学を研究する中国人女性(29)はビザ申請の際、人民解放軍士官という肩書を隠して「学生」と偽り、詐欺や虚偽申告などの罪に問われた。女性士官は米軍のウェブサイトにアクセスして中国へ情報を送るなど、多くの任務を果たしたとみられる。
ハーバード大でがん研究をしていた中国人の研究者(30)は、ソックスのなかに生物試料の瓶21本を隠したまま帰国便に搭乗しようとしたうえ、連邦当局者に嘘をついた罪に問われていることも分かった(2020年1月29日付、米CNN日本語版)。
州検事は「中国が米国の技術を盗み取ろうとしている作戦のほんの一部だ」と語り、ボストンは大学や研究施設が集中しているため標的になりやすいとの見方を示した。
千人計画絡みの事件は続く。5月8日、米司法省は南部アーカンソー州にあるアーカンソー大学の中国系米国人教授を逮捕、起訴した。中国政府や企業から資金供給を受けていたにもかかわらず、虚偽の申告をした罪だ。リーバー教授と同じ罪で、最長20年の懲役刑となる。
米司法省などによると、この教授は仲間の中国人研究者に送ったメールで、「中国のネットで調べれば分かるが、米国が『千人計画』の学者をどう扱うかが分かる。私がその一人であることを知っている人は少ないが、このニュースが広まったら私の仕事は大変なことになる」と書いている。