中国は次世代通信網5Gや陸海空という伝統的な戦闘空間に加え、サイバーや宇宙、電磁波という新たな空間での世界覇権を目論む。日本はこれにどう向き合っていくのか。この視点なくして日本の明るい未来は描けない。中国科学技術協会との関係強化を図る学術会議だが、こうした現状について見て見ぬふりでは存在意義を問われよう。
米ホワイトハウスは2020年5月、対中戦略的アプローチを発表した。
報告書は対中戦略において、米国は経済覇権、米国の価値観、安全保障の3つの挑戦に直面していると指摘した。そのうえで、自由で開放的なルールに基づく国際秩序を破壊する中国の行動に対して、徹底した現実主義(戦略的競争相手に対して国益を守る)に基づき、日本をはじめとする価値観を共有する同盟国と協力して厳しく対処するとしている。
具体策として、中国の軍民融合戦略を念頭に、AI(人工知能)など新興技術の流出による人民解放軍強化を防ぐため、外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)制定と外国投資委員会(CFIUS)の機能拡大による投資規制強化、輸出管理規制強化に取り組むとしている。
日本などの同盟国に対しても、投資審査の充実と輸出管理政策の協調を呼びかける方針だ。
注目すべきは、中国政府による新疆ウイグル自治区での人権侵害を批判したことだ。同自治区での人権侵害に関与する政府機関や監視技術を持つ中国企業に対する米国製品や技術の輸出停止を図るため、輸出を禁止するエンティティリスト(米国輸出管理規則)追加措置をとった。
学術会議はこうした米国や世界の動きに呼応し、中身のある提言をしてきたといえるのか。その実態は何ともお寒い限りだ。2020年6月末に施行された国家安全維持法で香港の一国二制度が骨抜きにされ、ウイグルでは人権弾圧が続いている。学術会議として日本政府に対し、中国との関係見直しなど、何らかの勧告や提言があってもよいはずだ。(初出:月刊『Hanada』2020年12月号)
産経新聞論説副委員長。1964年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。産経新聞・元ワシントン支局長。大学卒業後、産経新聞に入社。事件記者として、警視庁で企業犯罪、官庁汚職、組織暴力などの事件を担当。その後、政治記者となり、首相官邸、自民党、野党、外務省の各記者クラブでのキャップ(責任者)を経て、政治部次長に。この間、米紙「USA TODAY」の国際部に出向。2010年、ワシントン支局長に就任。論説委員、九州総局長兼山口支局長を経て、論説副委員長。主な著書に『日本復喝!』『日本が消える日』『静かなる日本侵略』(いずれもハート出版)などがある。