日本学術会議の問題は、図らずも国家の経済安全保障という大事な側面を浮き彫りにした。
自民党税制調査会長の甘利明衆院議員は中国への認識について、「内外に独裁的手法を包み隠さずあからさまにすることで世界覇権を行おうと思う事が驚愕です」と語っている。
さらには、「監視カメラと位置情報と顔認証とAI分析、公安の情報化である金盾システムで、国家監視社会モデルを築きこれをデジタル一帯一路に組み込んで行く、そして一帯一路参加国のデータは全て中国に集まる」2020年8月、甘利明の国会リポート410号)という。
金盾システムは、グレート・ファイアウォールと呼ばれる。目には見えないが、インターネット上に存在する中国国家にとって不都合な情報を遮断する技術のことを指す。言うならば、サイバー空間に広がる中国の万里の長城だ。
甘利氏は党ルール形成戦略議員連盟会長として、2019年5月、経済や安全保障政策の司令塔の創設を求める提言を安倍晋三首相に提出している。米国の国家経済会議(NEC)をモデルに「日本版NEC」を首相官邸に設ける内容だ。米中の貿易摩擦はデジタルや宇宙空間の覇権争いと絡んでおり、司令塔を活かして国家主導で一元的に戦略を立てる中国に対抗する狙いがある。
提言は日本版NECについて首相をトップに外務、経済産業などの各省や警察庁が組み、統一した戦略を練る必要性を指摘した。デジタルや軍事で影響力を強めようとする中国への警戒感が背景だ。巨大経済圏構想「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行(AIIB)、華為技術(ファーウェイ)などを列挙し、国家主導で世界経済の覇権を握る可能性に触れた(日経新聞2019年5月29日付電子版)。
甘利氏は、中国が経済的な手段で他国の外交や企業活動に影響を与える「エコノミック・ステートクラフト」を進めているとし、中国の監視システム「天網」が中国産の測位衛星やドローンの普及に伴い、自動運転車の開発や実用など企業活動や実社会への影響力を強める可能性を指摘。超電導など日本企業の産業技術が海外で軍事転用されるリスクについても警鐘を鳴らしている。
生活費と併せ年収8000万円!千人計画との関係
甘利氏の指摘で注目したいのは、学術会議と千人計画の関係だ。
「日本学術会議は防衛省予算を使った研究開発には参加を禁じていますが、中国の千人計画には間接的に協力しているように映ります。他国の研究者を高額な年俸(報道によれば生活費と併せ年収8‘000万円!)で招聘し、研究者の経験知識を含めた研究成果を全て吐き出させるプランでその外国人研究者の本国のラボ(研究室)までそっくり再現させているようです。そして研究者には千人計画への参加を厳秘にする事を条件付けています」 「(軍民融合を掲げる中国における)民間学者の研究は人民解放軍の軍事研究と一体であると云う宣言です。軍事研究に与しないという学術会議の方針は日本限定なんでしょうか」(国会リポート第410号)
一方、加藤勝信官房長官は10月12日の会見で、「学術会議が、千人計画を支援する学術交流事業を行っているとは承知していない」と述べた。
千人計画をめぐっては、本誌月刊『Hanada』2020年9月号で詳しく報告したが、改めてポイントを押さえておきたい。
千人計画とは、ノーベル賞受賞者を含む世界トップレベルの研究者を1000人規模で集め、破格の待遇で中国に招聘する国家プロジェクトだ。言うなれば、最先端技術を中心とした知的財産を米国など諸外国から手っ取り早く手に入れる計画だ。
米捜査当局(FBI)は2020年1月28日、千人計画への参加をめぐって米政府に虚偽の報告をしたとして、ナノテクノロジーの世界的な権威として知られるハーバード大化学・化学生物学学部長のチャールズ・リーバー教授を逮捕した。
この2カ月前の2019年11月には、米連邦議会が「中国の千人計画は脅威である」との報告書を公表している。連邦上院議会の国土安全保障小委員会(共和党のロブ・ポートマン委員長、オハイオ州選出)が超党派でまとめた。
報告書は「中国の国外で研究を行っている研究者らを中国政府が募集する人材募集プログラムにより、米政府の研究資金と民間部門の技術が中国の軍事力と経済力を強化するために使われており、その対策は遅れている」と指摘。
ポートマン上院議員によると、契約書は千人計画に参加する科学者に対し、中国のために働くこと、契約を秘密にし、ポスドクを募集し、スポンサーになる中国の研究機関にすべての知的財産権を譲り渡すことを求めているという。