中国や北朝鮮など周辺諸国が極超音速ミサイルの開発を加速し、日本への軍事的脅威を増す中で、我が国には日本を脅かすミサイルに対する防衛システムを構築できる先端科学技術がある。しかし、日本学術会議による軍事研究禁止が足かせとなって、その技術を活用できない。今ほど学術会議の抜本的見直しが必要な時はない。
周辺国で進む極超音速兵器の開発
極超音速ミサイルとは、通常の弾道ミサイルより低空を音速の5倍以上の速度で飛行するミサイルで、放物線軌道を描いて目標へ向かう弾道ミサイルと異なり、飛行中に軌道を俊敏に変更でき、迎撃が困難とされる。中国は8月に地球周回軌道から極超音速兵器の発射実験を行ったと英紙に報じられ、北朝鮮も9月28日に極超音速ミサイル「火星8型」の発射試験を実施した。我が国はこれらのミサイルに対する迎撃手段を持たない。
通常の弾道ミサイルを含め、多くの大量殺戮兵器に脅かされる状況にあって、我が国はさまざまな防衛システムを構築する必要がある。極超音速巡航ミサイルで敵の地上基地を無力化する、あるいは人工知能(AI)を使って敵の極超音速ミサイルの変則軌道を予測しながらこれを迎撃するには「ラムジェット」や「スクラムジェット」と呼ばれる極超音速ジェットエンジンが必要である。我が国の国立大学の工学部・工学研究院や付属研究所は、そのような最先端研究を行っている流体工学、航空宇宙工学、電子工学、電波工学、原子力工学、人工頭脳(AI)や機械学習の情報工学などの優秀な人材の宝庫である。
また、超電導リニア加速器を使って極々超音速で弾丸を機関銃のように発射し続けるレールガン、光速レーザー砲、加速器駆動(ADS)中性子ビーム砲で敵の核弾頭を破壊することや、敵ミサイルの制御を妨害する妨害電波を発射することも、我が国の先端科学技術とそれを支える頭脳を有効に使えば実現できる。大学における若手研究者の育成、研究施設の整備、5年の任期付きなどの人事制度の改革などが急務である。
国民の命と暮らしを守る防衛研究
ところが、こうした技術を我が国の国民の命と暮らしを守るために使えないようにしているのが日本学術会議の「軍事的安全保障研究」禁止声明(2017年3月24日)である。日本学術会議の会長も当初は、我が国を守るための防衛研究は必要であるとの意見を述べていた。しかし、九条科学者の会など護憲団体に支援された「軍学共同反対連絡会」(共同代表・池内了名大名誉教授)が日本学術会議の総会に押しかけ、防衛も含む軍事目的に転用され得る研究を禁止にしてしまった。このことから複数の大学で防衛装備庁の公募研究が中止に追い込まれた。
菅義偉前政権は、日本学術会議を「行政改革の対象として聖域なく見直す」(河野太郎行革担当相)方針を示したものの、政権末期の求心力低下により、改革は宙に浮いてしまった。衆院選挙後の新政権は、日本学術会議の抜本的改革と国民を守る最先端防衛力の強化に最優先で取り組んでほしい。(2021.10.25国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)