たやすく外国人を不当逮捕し外交カードに使用
法治国家と言いながら、三権分立を否定し、憲法の上位に共産党を置くいまの中国は、法をいかようにも恣意的に運用し、在留外国人を不当に逮捕することで外交カードとする人質外交を厭わない。 10年前に起きた中国漁船による海上保安庁の巡視船への体当たり事件を思い出していただきたい。
2010年9月7日、沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺海域で中国漁船が海保の巡視船に体当たりし、中国人船長を公務執行妨害容疑で逮捕した一件だ。当時、日本の民主党政権は腰の砕けた対応で法を捻じ曲げ、那覇地方検察庁に船長を処分保留で釈放させてしまった。
報復なのだろう。中国は中国国内にいたフジタの社員4人を「許可なく軍事施設を撮影した」と難癖をつけて身柄を拘束し、レアアースの日本への輸出を止める挙に出た。レアアースは希土類元素とも呼ばれ、パソコンのハードディスクなど、先端技術製品の製造に欠かすことができない金属だ。実際には、複数の税関での通関業務を意図的に遅滞させることで事実上、輸出を止めた。
こうなると、中国にいる日本人は自分で自分の身を守るしかない。子どもの安全は、学校や親がみだりに外出させないなど、適切に対応するしかない。
手元の資料によると、平成31年4月現在とみられる在中国の日本人学校の生徒は3000人弱。上海日本人学校は3校あるが、1校しかカウントされていないので、他の2校と記載のない別のエリアの学校の児童・生徒を加えれば4000人を超える。
日本国内に比べて教師、職員は十分に足りているのか。突発的な暴動が起きた際、子どもたちの登下校の安全を学校側がしっかりと確保する責務がある。
中国政府は、もっとストレートに制裁が可能となるよう新たな経済制裁のツールも手に入れた。12月に施行する輸出管理法だ。安全保障などを理由に禁輸企業リストをつくり、特定の企業への輸出を禁じるものである。ファーウェイなど中国企業への禁輸措置を強めている米国への対抗措置だ。輸出管理法で中国当局が日系企業を「中国の安全や利益に危害を加える虞れがある」と判断した場合、輸出を不許可にしたり、禁輸リストに載せたりできる。
無実の罪で死刑のリスクも
フジタ以外にも、北海道大学教授など、日本人が不当に身柄を拘束された例は枚挙に遑がない。
分かっているだけでも、2015年以降、愛知県の男性や札幌市の男性のほか、日本語学校女性幹部、日本地下探査の男性、伊藤忠商事の男性ら計14人が身柄を拘束され、9人が懲役刑を宣告されている。
日本人の人質だけではない。2018年12月1日、米国の要請により、対イラン経済制裁に違反して金融機関を不正操作した疑いで、ファーウェイの孟晩舟副会長がカナダ当局に逮捕されたあとのことだ。
中国最高人民検察院は2020年6月19日、2018年12月に中国当局に拘束された元外交官ら2人のカナダ人について、「外国のために国家機密を探索した罪」などで起訴したと明らかにした。2人の身柄拘束は、ファーウェイ副会長兼最高財務責任者(CFO)の孟晩舟をカナダ当局が逮捕した報復とみられる。
このほかにも、2015年3月、米国人女性実業家、16年1月に人権団体のスウェーデン人、2018年7月に中国大陸との交流関係に携わっていた台湾人、19年8月にオーストラリア人作家、同8月に在香港の英国総領事館の現地職員、9月に派遣会社経営の米国人と米国人学生が、同9月には米物流大手航空会社のパイロットが軒並み、容疑事実不詳のまま逮捕されている。
留意したいのは、2014年11月1日に中国で「反スパイ法」が施行されてから、日本人を含む在中国の外国人の身柄拘束が相次いでいる点だ。最高刑は死刑である。
この反スパイ法に全体主義の魂を注入する原型となったのが、2012年に改正された刑事訴訟法第73条だ。改正の柱は、「指定居所監視居住」という項目だ。公安当局が指定した施設で、裁判所による逮捕令状がなくても監視や拘束活動が許可される内容だ。
要するに、容疑がなくても当局の恣意的な判断次第で、中国人だろうが外国人だろうが、簡単に身柄を拘束できるという人権無視の反社会的条文なのだ。捕まえてから逮捕容疑を考えるというのだから、でたらめというほかない。
北京駐在の長い筆者の同僚は、中国国内を取材する便宜上、航空機を利用せざるを得ない場合でも、「決して手荷物を預けない」と言っていた。到着した空港で預けた荷物を引き取るまでの間に白い粉などを入れられ、「これは何だ?」などとイチャモンをつけられたら最後、覚醒剤所持の現行犯で逮捕され、密室での裁判で死刑宣告されかねないからだという。