民主主義と独立を守り抜く固い意志
台湾の頼清徳・新総統が5月20日に就任した。台湾は日本と同様に確固たる民主主義を確立しており、頼新総統は就任演説において、民主的な選挙で選出されたこと、そして、民主主義を守ることの重要さから演説に入った。頼新総統は、「私は極めて揺るぎない心をもって、国民の負託を受け中華民国第16代総統に就任する。私は中華民国の憲政体制に基づき、国を前進させる重責を担うべく取り組んでいく」と冒頭で述べた。
さらに頼新総統は、1996年の李登輝総統による民主化で行われた台湾初の総統選について触れた。「1996年の今日、台湾で初めて民選による総統が宣誓就任し、国際社会に中華民国台湾は主権独立国家であり、主権は民にあるというメッセージを伝えた」「苦労して勝ち取った民主主義の勝利」と演説で続けた。
頼新総統が演説冒頭から、台湾の民主化と民主主義を継続して守ってきたことを述べたのは、国民への一致結束の呼びかけと、対中国への意識がある。中国共産党政権は、専制政治であり、台湾の民主主義が中国に波及することを恐れている。
中国の王毅外相は、早速、頼新総統について、「民族と祖先を裏切る行為は恥ずべきものだ」として強く非難した。頼新総統が1996年に触れたのは、当時の李登輝総統が、台湾海峡に中国からミサイルを撃ちこまれてもひるまず、民主主義を守り国防力を強化し台湾の独立を守ったことについて、頼新総統も現在の中国による侵略危機のなか、李登輝元総統のように台湾の民主主義と独立を守り抜く固い意志を表明したのである。
そして、頼新総統は「新政権は『四つの堅持』に基づき、現状維持に取り組む」と述べた。これは、台湾が国家として独立宣言をするということでなく、実質的な独立国家として現状維持で進んでいくということを宣言したこととなる。
対話の重要性を求める一方で
中国は、頼新総統が「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」と述べた部分に反発しているが、演説全体は現状維持に重点が置かれている。これは台湾の民意に沿ったもので、台湾の国立政治大学選挙センターの昨年の世論調査では、台湾独立について、独立実現派は25.3%で、現状維持派が61.1%となっている。
2020年を境に、独立実現派は減る傾向で、現状維持派が増える傾向を示している。これはすでに、民主化以後に生まれた台湾人意識の強い「天然独」の世代をはじめ、「台湾は台湾であり、私は台湾人である」と考える人が6割超にのぼっていることも作用している。
さらに、頼新総統は中国に対し、台湾海峡と地域の平和と安定を維持することへの尽力を求めるとともに、「台湾海峡を越えた平和、互恵、共存、共同繁栄が互いにとって共通の目標となるべきである」と呼びかけた。そして、「対抗ではなく対話を、封じ込めではなく交流を進め、協力し合うことを望む」と続けた。中国に事態をエスカレートしないよう求め、対話の重要性を求めるという、新総統として極めて温和で理知的な内容であった。
一方で、台湾への威嚇や武力による挑発については、明確にやめるよう中国に求めた。「私たちは平和を追求するという理想を持っているが、幻想を持つことはできない。中国はまだ台湾に対する武力侵攻の可能性を断念していない」「中国からの様々な脅威に対して、私たちは国を守る決意を示し、国を守る全ての国民の意識を高め、国家安全保障の法制度を改善し、国防を強化し、経済の安全保障を構築する」と強い意志で述べた。
頼新総統は、これらにおいて米国との関係を強調した。米国が、インド太平洋地域の軍事支援を含む追加予算案を4月に可決したことに触れ、台湾海峡の平和と安定への支援に謝意を示した。