目を引くのが自動車メーカー各社の動きだ。コロナ禍で一時は駐在員や家族を帰国させ、中国工場の稼働を停止したが、すぐに再開させた。そのかいあって、日系自動車大手4社の中国市場における2020年10月の新車販売台数は好調だ。
産経新聞などによると、トヨタ自動車が前年同期比33・3%増となるなど、マツダを除く3社でプラスとなった。10月上旬には国慶節(建国記念日)の連休があって販売店への来客が増えており、新型コロナウイルスによる打撃からの回復傾向が続いたとみられる。
トヨタは17万5600台で、7カ月連続で前年実績を上回った。高級車ブランド「レクサス」が44・4%増と好調だ。1~10月の累計でも前年同期比9・5%増と、コロナ後の回復が進んでいる。今夏、天津と広東省広州でEVやプラグインハイブリッド(PHV)などの生産拠点とする二つの工場の建設を開始した。
ホンダの10月販売は、22・3%増の18万655台だった。主力モデル「シビック」などの販売が伸びて4カ月連続のプラスを確保した。ハイブリッド車(HV)の月間販売台数も過去最高を更新し、今年に入り、武漢と広州の2カ所で生産ラインを増設、生産能力を24万台増やしている。
日産自動車は5・0%増の14万6028台。乗用車と小型商用車の販売好調が牽引し、2カ月連続のプラスとなった。2021年中に中国での生産能力を約3割増強し、現在の年140万台から、年180万台まで引き上げる。合弁相手の東風汽車集団が保有する湖北省武漢と江蘇省常州の工場に、日産専用の生産ラインを設けるという。
2020年3月期連結決算は最終利益が約6007百億円の赤字で、主要国のなかでいち早く需要が回復している中国で、業績改善の糸口をつかみたい考えとみられる。 マツダだけは、1・0%減の1万9681台で、2カ月ぶりのマイナスだった。
自動車会社以外も続々と中国へ
自動車会社以外にも、多くの日系企業が中国の市場を狙っている。
中国・上海で2020年11月5日、大型見本市「中国国際輸入博覧会」が開かれた。中国に売り込みたい商品をパナソニックなど日系企業も多数出展した。
メイド・イン・ジャパンへの信頼はもともと高いことに加え、新型コロナウイルスの流行後は、衛生や健康に関する商品が特に注目されている。パナソニックは、日本市場で培った技術を活かした空気清浄機や、センサー技術を活用した非接触型の住宅設備を展示した。
キヤノンはコンピュータ断層撮影装置(CT)など医療機器を前面に打ち出し、日立グループは顔認証などを使い、操作盤に触れずにエレベーターを利用できる取り組みなどをアピールした(11月7日、産経新聞朝刊)。
明治ホールディングスは7月16日、中国・広州市に牛乳やヨーグルト、菓子の生産販売拠点を新設すると発表した。中国法人と明治が出資する新会社を設立し、23年度中の生産開始を目指す。資本金は12億元(約184億円)。商品の供給体制を強化し、最注力地域として中国事業の拡大を図る。
ヤクルト本社も中国向けに化粧品販売に乗り出した。同社は今夏、中国アリババ集団の運営する越境電子商取引(EC)サイトに出店し、日本で訪問販売してきた基礎化粧品など44種類をそろえた。中国ではアンチエイジング商品を購入する若年層が多く、日本で中高年層向けに展開してきた商品を売り込む。2021年3月までに1億円の売り上げを目指すという。
中国は本当に「おいしい市場」なのか?
このようなニュースに接すると中国はおいしい市場にしか見えなくなるが、実態は疑わしい。中国国内で新型コロナウイルスの感染が「収束」しているというが、中国共産党当局の景況感はまったく当てにならず、本当のところは分からないからだ。新型コロナウイルスの感染拡大で原材料や部品調達を中国に頼っていた企業や、国内外で生産停止した工場に部品供給を行う企業では、経営環境が急速に悪化している。
流通大手を中心に、中国での全面的な生産や店舗営業の再開時期が見通せずにいるほか、中国製部品や食材などの供給量減少で国内工場も操業停止するなどの影響が出ている。在庫や設備に余裕のない中小企業では、サプライチェーンが断たれれば中国事業での影響は深刻だ。
日中の貿易総額は3039億ドル(2019年)で、日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、中国にとって日本は米国に次ぐ2番目の貿易相手国である。日本の対中直接投資総額は38・1億ドル(2018年)で、中国にとってシンガポール、韓国、英国に次いで第4位の投資国となっている。