日本人12万4000人が「人質」に
企業が利潤を追求するのは当然だが、経済活動だけでは片づけられない問題が横たわっている。現地に派遣する日本人従業員や帯同する家族が、中国に人質にとられる可能性があることだ。外資の国外逃亡が加速して経済的に追い詰められた中国が態度を硬化させ、日系企業への締め付けを強めれば、中国在留約12万4000人の日本人の生命と財産が脅かされかねず、帰国もままならなくなれば事実上の「人質」となる。
日本の中国進出企業はこのことにあまりに無頓着であり、無警戒だ。
現在、中国進出の日系企業は、帝国データバンクによると約1万3600社で、中国関連ビジネスに携わる企業は3万社に上る。
過去最多だった2012年の1万4394社に比べ748社減るなど、中国に進出する日系企業は減少傾向にはある。
業種別にみると、最も多いのは製造業で5559社、全体の4割を占める。次いで、卸売業4505社が3割。進出地域で最も多いのが中国東部の華東地区で、9054社に上る。
特に上海市は6300社と、中国全土で最も多い。1900社が進出している江蘇省と合わせ、日系企業の多くが上海経済圏に集まっている。新型コロナウイルスが発生した湖北省武漢市エリアには、多数の日系自動車産業が進出している。
暴動が叫んだ「愛国無罪」のスローガン
中国が政情不安になった際、あるいは、中国側が尖閣諸島(沖縄県石垣市)などへの挑発を強め、日中両国間の緊張関係が高まったとき、真っ先に危険が及ぶのが日系企業とその家族である。
愛国無罪のスローガンの下、2005年4月、四川省成都で日系スーパーに対する暴動が発生し、北京や上海で日本に対する大規模なデモの一部が暴徒化した事件を覚えている日本人も多いだろう。
2012年の中国における反日活動は、野田佳彦政権による尖閣諸島の国有化をきっかけに激化した。暴徒は日系企業の工場や店舗に対して放火や略奪を繰り返した。さらには丹羽宇一郎駐中国大使の公用車を襲い、車の国旗を強奪、邦人を襲撃したりした。
こうした暴動は、ソーシャルメディア(SNS)を発火点として燎原の火のごとく中国全土に広がり、それをまた中国当局が見て見ぬふりをしているのではないか、と思われる映像が流れたのを筆者は見た。暴徒を制御しなければならないはずの警官がボーッと突っ立ている光景だ。
北京で2004年に開かれたサッカー・アジアカップ決勝戦で日本が中国に勝利したあと、在北京日本大使館の公使2人が乗った大使館車両が、中国人サポーターに襲われた。中国紙は批判したが、襲われた際の映像まで残っているのに容疑者は割り出されなかった。当局の怠慢か嫌がらせだろう。ネット上では暴漢に対し、「愛国者」 「英雄」などの言葉があふれた。