北朝鮮に対しては前回に続き「敵」という位置づけを落とした。北朝鮮は1995年から2000年まで「主敵」とされていたが、金大中政権がその記述を落とした。2010年に李明博政権が「北の政権と北の軍は敵」との表現で「敵」を復活させた。文政権になってそれが消えた。それどころか、「わが軍は韓国の主権、国土、国民、財産を脅かし、侵害する勢力をわれわれの敵と見なす」として、日本も敵と見なし得る表現となっている。
中国に対しては批判を一切行わず、「戦略的協力同伴者関係」とされ、国防協力が順調に進んでいることが強調された。
このような各国についての記述は国防協力の章にあるのだが、まず中国との良好な関係が書かれ、その次に日本との対立的関係が書かれている。その後ろにはロシア、東南アジア、インド、中東などとの関係を取り上げているが、対立的な記述は一切ない。つまり韓国軍にとって協力への障害があるのは、世界で日本だけと国防白書は言っているのだ。
文在寅政権下の韓国軍が、北朝鮮は敵でない、日本は同伴者でなくただの隣国、中国は「戦略的協力同伴者」と見ていることの意味を、我々は軽視してはならない。(2021.03.01 国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
モラロジー研究所教授、麗澤大学客員教授。1956年、東京生まれ。国際基督教大学卒業。筑波大学大学院地域研究科修了(国際学修士)。韓国・延世大学国際学科留学。82〜84年、外務省専門調査員として在韓日本大使館勤務。90〜02年、月刊『現代コリア』編集長。05年、正論大賞受賞。17年3月末まで、東京基督教大学教授。同4月から、麗澤大学客員教授・モラロジー研究所「歴史研究室」室長。著書に『でっちあげの徴用工問題 』など多数。