トランプを生贄にする3つの敵|饗庭浩明

トランプを生贄にする3つの敵|饗庭浩明

「嵌められた。トランプはこれで生贄にされるかもしれない」――1月6日の連邦議事堂突入・占拠は何を意味しているのか。そしてアメリカ政界では何が起きて、トランプが「生贄」になったのか。トランプとは2016年の当選前より毎年会談を重ね、政権の中枢近くにも強力なコネクションを有する饗庭氏が徹底分析!


トランプを生贄にする共和党のトップ

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ミッチ・マコーネル

上院共和党のトップとして君臨する、ミッチ・マコーネルも、トランプを生贄にささげようとするもう一人の人物として、指摘しなければなるまい。

マコーネルは1985年から35年間にわたり上院議員を務め、「死神」との異名を取るほど、自身の認めない政策を葬り去ることで知られている。78歳(まもなく79歳になる)になった現在、上院共和党のトップとして巨大な影響力を持っている。

そのマコーネルは、2020年12月の選挙人団による投票直後から、トランプの負けを認めるように上院において積極的にロビイング活動を行い、異議申し立てを行おうとするテッド・クルーズ議員らを批判してきた。

連邦議会への突入事件後の早い段階から、マコーネル上院議員は、トランプに対する弾劾決議を個人的にサポートしている、と報じられていた。デマであればいち早く否定しそうなものだが、マコーネル自身はこれを特に否定しない。

さらに重要なのが、トランプ政権の閣僚で、事件後に最も早く辞任したイレーン・チャオ運輸長官は、マコーネルの夫人である。イレーン・チャオは、1983年にホワイトハウス研修生としてワシントンに関わり始め、1986年には運輸省での職に就く。父親と江沢民が同級生であるため、結婚式に台湾(チャオは台湾出身)だけでなく中華人民共和国の駐米代表など多数が詰め掛けたという逸話が知られる。ディープ・ステートの一員であるだけでなく、中国利権とも関連する人物である。

マコーネルが大統領弾劾をなぜ支援するのか。その理由は明白で、トランプの影響力を共和党から排除するため、である。

アメリカの憲法の規定では、弾劾裁判によって有罪にされた人物は、公職に就くことを禁じられる。また、憲法修正第14条では、「合衆国に対する暴動または反乱に加わり、または合衆国の敵に援助もしくは便宜を与えた者」について大統領、副大統領、連邦議員になることはできない、と規定される。

もしもトランプがこれに該当すると上院が認めれば、トランプは今後、連邦議会の上下両院が3分の2以上の賛成でこれを解除するまで、永久に公職から追われることになる。

つまり、ワシントンの既得権益グループは、トランプの政治生命を制度的に絶つべく、公然と動き始めたのである。

比較的トランプの影響力が強い下院共和党はこれに対し、打つ手があまりないのが実情だ。リズ・チェイニーを共和党内のポストから降ろすよう、保守派のジム・ジョーダン議員らが呼び掛けているものの、決定打に欠けている。

気に喰わない声を沈黙させるシリコンバレー企業

こうした動きを、側面から支援しているのが、TwitterやFacebookといったビッグ・テック企業である。

改めて述べるまでもないが、ビッグ・テックは「暴動を煽っている」との理由でトランプのアカウントを早々と停止し、トランプへの支持を呼び掛ける保守層のアカウントも次々に凍結するなどした。

余談だが、連邦議会への突入事件の主犯格とされるニック・フエンテスのアカウントはTwitterに残ったままである。「ワシントンには近寄らない」と言ったり、トランプを批判したりしているからだろうが、甚だしい矛盾であろう。

アメリカ共和党の重鎮であり、2020年のCPAC Japanに登壇した、テッド・クルーズ上院議員は、かねてよりビッグ・テック企業に対して強く批判してきた。

クルーズ議員は、シリコンバレーの企業がこぞって、「気に食わない人々の声を沈黙させようとしている」(2020年12月15日のtwitter投稿)と、正当に主張し続けてきた。クルーズ議員は、議会公聴会において、「(SNS企業は)憲法に関する事項や、開かれた議論を行うことを好まない。独占企業としての力を、公共の議論の場において濫用してはならない」と述べ、フェイスブック社やツイッター社の政治的姿勢は、民主主義にとっての脅威だと指摘してきた 。

従来、メディアが行ってきた政治に関する最大のバイアスは、一方的な攻撃やネガティヴ・キャンペーンだった。しかし、SNSの発展に伴って、新たなメディアが行うようになった手段は、「人の目に触れないようにすること」であった。

周知のように、Twitter社は、選挙直後から、トランプ大統領による選挙不正に関する投稿に対して、「この情報は正確ではない可能性があります」などのキャプションを自動的に貼り付け、ときには表示できないように仕向けてきた。

しかし、まだ選挙当局者からの公式なアナウンスがない段階で「勝利宣言」を行ったバイデンについて、このようなキャプションが付されることはなかった。選挙不正について「正確ではない可能性があります」と言うのであれば、バイデンの「勝利」についても、「正確ではない可能性があります」と付けるのが、少なくとも公平というものだろう。

まして、選挙不正問題に関する投稿を、これらのメディアは一方的に禁止し、議論さえさせないように仕向けた。クルーズ議員が問題視するのは、この点である。

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