トランプを生贄にする3つの敵|饗庭浩明

トランプを生贄にする3つの敵|饗庭浩明

「嵌められた。トランプはこれで生贄にされるかもしれない」――1月6日の連邦議事堂突入・占拠は何を意味しているのか。そしてアメリカ政界では何が起きて、トランプが「生贄」になったのか。トランプとは2016年の当選前より毎年会談を重ね、政権の中枢近くにも強力なコネクションを有する饗庭氏が徹底分析!


嵌められたトランプ

アメリカ東部時間の1月6日午後、連邦議事堂を護るはずの警官隊が、なぜか自ら柵を開け、群衆の突入を誘導する様子を、私は呆然と見ていた。

その日の午後1時から、大統領選挙人による投票を開票する上下院合同会議が始まってからおよそ30分後、アリゾナ州の結果に異議を申し立てていたジェームズ・ランクフォード上院議員の演説の最中に、「会議中断」のアナウンスが入った。「群衆が建物に突入しました」と告げるアナウンス、退避を始める議員たち。

直感的に私は、「嵌められた。トランプはこれで生贄にされるかもしれない」と思った。

トランプがこの日に全米から群衆を集めてどのような役割を担ったか、という問題ではない。この事件について誰かを犠牲にしなければ、連邦議事堂が米国史上初めて占拠され、彼らの民主主義の象徴に泥を塗られた、という怒りの感情が高ぶった議員たち、エリートメディア、そしてショックを受けたアメリカの人々は決して納得しないだろうからだ。

現実に戦争犯罪に手を染めていないにもかかわらず、「平和に対する罪」などという罪科をでっちあげて裁きを下した、極東軍事裁判と同じ構図である。

そして現実に、①エスタブリッシュメント、②ギングリッジ元下院議長が強く主張するところのディープ・ステート(国家内深奥権力)、そして③ビッグ・テックによって、米国保守派への尋常ならざう暴走が始まっている。

Getty logo

混乱するトランプ支持者

アメリカ保守連合(ACU)のエグゼクティヴ・ダイレクターであるダン・シュナイダーは、長年にわたってトランプを支持し続けた人物である。連邦議会への突入事件の翌日、私はすぐにダンと対話した。

彼は、これからしばらくのあいだ、暴力的な民兵組織の活動が激化するかもしれないという見通しを示しつつ、次のように困惑を語った。

「私は、一部の人たちがこれからどういう行いをするのか、非常に神経質になっている。心配だ。いま、アメリカは真っ二つに割れ、左派・極左の人たちが、中道だった人たちをぐっと左派のほうへひきつけている。
保守の私たちとしては本当に困ったことで、将来どうなっていくのか、私にもわからない。」

この困惑が、トランプ支持者の大多数の本音であろう。

冒頭、述べたように、トランプ支持者が警官隊により、鉄壁なはずの議会への突入を誘導された様子は、ネットに上がっては消される多数の証拠動画で判明している。

しかし、暴力行為を主導したとされる過激な人々とトランプ支持者を、わざと同一視する左派の発言や煽り報道によって、中道だった人々まで左派へとひきつけられ、保守やトランプから引きはがされてゆく。真相がわからない以上、行動が目立つ過激主義者の行動にスポットが当たらざるをえない。

関連する投稿


ヨーロッパ激震!「ロシア滅亡」を呼びかけたハプスブルク家|石井英俊 

ヨーロッパ激震!「ロシア滅亡」を呼びかけたハプスブルク家|石井英俊 

ヨーロッパに君臨した屈指の名門当主が遂に声をあげた!もはや「ロシアの脱植民地化」が止まらない事態になりつつある。日本では報じられない「モスクワ植民地帝国」崩壊のシナリオ。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

とるべき財政政策とエネルギー政策を、アメリカの動きを参照しつつ検討する。自民党総裁候補者たちは「世界の潮流」を本当に理解しているのだろうか?


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


「乗っ取られた」パリ五輪開会式|上野景文(文明論考家)

「乗っ取られた」パリ五輪開会式|上野景文(文明論考家)

いろいろな意味で話題になったパリ五輪が閉幕した。 とくに国際的な話題となったのは、あの開会式だ。 「史上最悪の式典」とも言われたあの開会式の問題を改めて問い直す。


最新の投稿


【今週のサンモニ】非正規移民に対する認識のズレ|藤原かずえ

【今週のサンモニ】非正規移民に対する認識のズレ|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】日本の農業の大きな闇|藤原かずえ

【今週のサンモニ】日本の農業の大きな闇|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

読者獲得のための宣伝材料にしようと放った赤旗の「スクープ」だったが、批判が殺到!いったい何があったのか? “無理やりつくり出したスクープ”とその意図を元共産党員の松崎いたる氏が解説する。


【読書亡羊】「台湾系移住民」が経験した古くて新しい問題  三尾裕子『心の中の台湾を手作りする』(慶応義塾大学三田哲学会叢書)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「台湾系移住民」が経験した古くて新しい問題 三尾裕子『心の中の台湾を手作りする』(慶応義塾大学三田哲学会叢書)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「ある意味、地獄が待ってます」退職自衛官を苦しめる若年給付金の返納ルール|小笠原理恵

「ある意味、地獄が待ってます」退職自衛官を苦しめる若年給付金の返納ルール|小笠原理恵

ある駐屯地で合言葉のように使われている言葉があるという。「また小笠原理恵に書かれるぞ!」。「書くな!」と恫喝されても、「自衛隊の悪口を言っている」などと誹謗中傷されても、私は、自衛隊の処遇改善を訴え続ける!