トランプを生贄にする3つの敵|饗庭浩明

トランプを生贄にする3つの敵|饗庭浩明

「嵌められた。トランプはこれで生贄にされるかもしれない」――1月6日の連邦議事堂突入・占拠は何を意味しているのか。そしてアメリカ政界では何が起きて、トランプが「生贄」になったのか。トランプとは2016年の当選前より毎年会談を重ね、政権の中枢近くにも強力なコネクションを有する饗庭氏が徹底分析!


Getty logo

主要メディアは「不都合な真実」を隠蔽

リベラルの影響力が強いシリコンバレーに本拠地を置くSNS企業などが、リベラル寄りなのは自然かもしれない。しかし、だからといってアメリカの社会に対する説明責任も果たさず、勝手に事実を「なかったこと」にしたり、印象操作を行ってよいということにはならない。

「(SNS企業が)トランプ大統領とニュース企業を監視し、アメリカ国民をないがしろにして民主党を利するよう、ゲームのルールを変えてしまった」

とクルーズ議員は言う 。その通りである。

片方の主張ばかりを「正確ではない」とレッテル張りする企業は、公共性の担い手として大きな課題が残る。それは、民主主義に対する巨大な脅威である。

主要メディアも、こうした「不都合な真実」を隠蔽する手法を、昨年の選挙では徹底採用した。2016年の選挙では、主要メディアもまだ、ヒラリー・クリントンの機密漏洩問題などをきちんと取り上げる公平さを持っていたが、今回は違う。

ジョー・バイデンの次男であるハンターについて、中国企業との不正な取引や脱税の疑惑があることを知りながら、大統領選挙が終わるまで報道しようとしなかったのが、その典型例だ。

ワシントンの政治専門誌である『ザ・ヒル』は、ハンター・バイデンの脱税問題を報道しなかった主要メディアの姿勢について、「情報を隠すというバイアスが、ひどく露骨な方法でとられた…(中略)…報道すべき価値のある情報が、意図的に抑圧されたり無視されたのだ」と指摘する 。

さらに、SNS企業はこのハンター疑惑について選挙中に投稿があっても、また「正確ではない可能性」を指摘し、人々の目に触れないようにした。

投票そのものに関する選挙不正とは違った角度だが、こうしたビッグ・テックやメディアによる、とうてい公平とは言えない選挙妨害が、トランプに対しては公然となされた。

そして民主党の動きと同調して、連邦議会への突入事件の責任を負わせるように、発言の機会すら奪い去ろうとしている。

ビッグ・テックは国家より危険だ

Twitterがアメリカ発の企業であるため、いまのアメリカ政治に関する限り、国内における私企業と国家や政治の戦いのように見える。


しかし、同社が同じことを他国の政治家や政府それ自体に対しても、全世界の個人に対してもできるという点には、我々は大いに警戒心を払うべきだろう。

このことにいち早く反応したのが、ヨーロッパの政治指導者だったという点は、興味深い。アンゲラ・メルケル独首相は、Twitterによるトランプのアカウント停止という手段に対し、表現の自由に関する問題は国家法によって統制されるべきだと批判した。

「表現の自由」という民主主義の基本条件であり基本的人権とみなされている事項と、社会の安定のためにこれと衝突する制約を科そうとするとき、国家は調整するための正統性を民主的に与えられている。日本国憲法にも明記されている、「公共の福祉」のための止むを得ない制約がそれであり、制度的にもどのような手続きをとり、どこまで実行できるかが定められている。

では企業はどうなのかというと、この民主的な正統性も、制度的な保障もない、というのが実情である。

あくまで利用者との契約や同意事項の範囲として、「サーヴィスの利用規約に反します」と言えば、気に入らない言論を締め出すことができる。

メルケル首相だけでなく、フランスのマクロン大統領など、他の首脳もこうした批判を展開しているものの、ビッグ・テック企業は正面から答えようとしない。そして、トランプのアカウントは凍結されたままだ。

関連する投稿


米イラン衝突拡大 日本のサラブレッドに迫る戦火|小笠原理恵

米イラン衝突拡大 日本のサラブレッドに迫る戦火|小笠原理恵

米イラン衝突は、もはや遠い中東の出来事ではない。湾岸全域が戦域化するなか、その影響は日本にも及びつつある。石油備蓄やエネルギー価格の高騰については多く報じられているが、見落とされがちな問題がある。邦人保護は万全なのか。そして、国際舞台に立つ日本のサラブレッドの安全は守られるのか。戦火は思わぬところに影を落としている――。


アメリカ対中政策のジレンマ 「アトラスの時代」は終わった|岩田清文【2026年3月号】

アメリカ対中政策のジレンマ 「アトラスの時代」は終わった|岩田清文【2026年3月号】

月刊Hanada2026年3月号に掲載の『アメリカ対中政策のジレンマ 「アトラスの時代」は終わった|岩田清文【2026年3月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


夫婦でロシア入国禁止の理由とは?|石井英俊

夫婦でロシア入国禁止の理由とは?|石井英俊

民間人にまで及ぶ「ロシア入国禁止措置」は果たして何を意味しているのか? ロシアの「弱点」を世界が共有すべきだ。


「トランプ・パラドックス」と高市政権の命運|山岡鉄秀

「トランプ・パラドックス」と高市政権の命運|山岡鉄秀

石破政権が残した「相互関税+80兆円投資」ディールは、高市政権に重い宿題を突きつけている。トランプの“ふたつの顔”が日本を救うのか、縛るのか──命運は、このパラドックスをどう反転できるかにかかっている。


米国を破壊するトランプの“ラ米化”|上野景文(文明論考家)

米国を破壊するトランプの“ラ米化”|上野景文(文明論考家)

トランプ政権の下で、混迷を極める米国。 彼の目的は、いったい何のか。 トランプを読み解く4つの「別人化」とは――。


最新の投稿


【今週のサンモニ】トランプを呪縛だったノーベル平和賞|藤原かずえ

【今週のサンモニ】トランプを呪縛だったノーベル平和賞|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】チキンゲームを展開している米国とイラン|藤原かずえ

【今週のサンモニ】チキンゲームを展開している米国とイラン|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】法務省VS労働省 外国人労働者を巡る「仁義なき戦い」  濱口桂一郎『外国人労働政策』(中央公論新社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】法務省VS労働省 外国人労働者を巡る「仁義なき戦い」 濱口桂一郎『外国人労働政策』(中央公論新社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】常軌を逸したトランプとは一定の距離を|藤原かずえ

【今週のサンモニ】常軌を逸したトランプとは一定の距離を|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】国内外の話題でダブスタだらけ|藤原かずえ

【今週のサンモニ】国内外の話題でダブスタだらけ|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。