トランプを生贄にする3つの敵|饗庭浩明

トランプを生贄にする3つの敵|饗庭浩明

「嵌められた。トランプはこれで生贄にされるかもしれない」――1月6日の連邦議事堂突入・占拠は何を意味しているのか。そしてアメリカ政界では何が起きて、トランプが「生贄」になったのか。トランプとは2016年の当選前より毎年会談を重ね、政権の中枢近くにも強力なコネクションを有する饗庭氏が徹底分析!


保守派とは一戦を画す白人至上主義

現在、保守派の間では、連邦議会への突入は、ニック・フエンテス(Nick Fuentes)という白人至上主義の過激派をリードする若者が、主導したと考えられている。

フエンテスはイリノイ州生まれの22歳で、2016年からポッドキャストなどウェブサイトでの活動を主にしてきた。

彼は保守主義者の団体としばしば衝突し、たとえば2020年2月にはACUの主催する保守政治行動大会(CPAC)に対抗して、「アメリカ・ファースト政治行動大会」(AFPAC)というイベントを行った。昨年12月にはいっそう過激化し、「共和党を破壊せよ」(Destroy the GOP)というキャンペーンを組織して、ワシントンで抗議集会を行ったりした。

つまり、トランプ支持者ではあるものの、私たち保守派とは一線を画す人物である。連邦議会への突入について本人はツイッターで否定しているが、私は共和党の関係者から聞いたし、ニューヨーク・タイムズなども彼の関与を指摘している(The New York Times, "Pro-Trump Mob Livestreamed Its Rampage, and Made Money Doing It")。

たしかにニック・フエンテスは、ここ数週間、トランプすら敵視するようになっていた。

1月7日にトランプがビデオ声明で暴力を非難したり、1月12日にテキサス州での演説でバイデンを「次期政権」と呼んだからだ。「この男のために人々は喜んで命すら投げ出そうとしたのに、あの男は催涙弾の中に全員を投げ込んだだけだった!」とフエンテスはTwitterに投降した。

フエンテス自身は、「ワシントンみたいな邪悪な場所には二度と行かない」などと啖呵を切っているが、こういった人々が今後いかなる行動を取るか、特にアメリカの保守主流派の人々にとっては、気が気でないというのが実情である。

正道の保守派は、トランプ大統領のアメリカ第一主義を支持しつつ、反乱のような暴力行為を否定する。それだけに、慎重にならなければならないのが現状である。

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ニック・フエンテス

共和党分断を利用する民主党

その意味では、共和党そのものが分裂の危機にある。

片方には、「トランプたちは選挙結果に異議を申し立てるところから行き過ぎた」という(民主党に切り崩されそうな)支持層。もう片方には、共和党はまだ十分にやれることをやっていない、という(フエンテスら極右化しつつある)勢力。その双方が、共和党から離れようとするため、共和党そのものが引き裂かれ、身動きを取れなくなりつつある。

こうした背景を政治的に利用しているのが、民主党である。「トランプ支持者は危険だ」と煽ることで、自分たちの側により多くを引き込もうという政治ゲームを主導している。

ジョー・バイデンにしろ、ナンシー・ペロシにしろ、民主党の幹部たちはこのところ事あるごとに「分断を克服する」とか「党派対立を乗り越える」といった発言を繰り返している。

しかしその実、ペンスに対して憲法修正25条を適用してトランプ大統領から権限を剥奪するよう迫ったり、トランプ大統領への二度目の弾劾を無理やり決議する、というありさまだ。

たとえばペンスが修正25条を適用して職務権限を剥奪すれば、アメリカの対立はなくなるのだろうか。むしろ、トランプ支持者の一部はいっそう過激化し、全土的な暴動を計画するだろう。連邦議会に突入した勢力の一部が、「ペンスを吊るせ!」と叫んでいたことを、忘れないほうがいい。

ペンスが大統領権限を剥奪したり、上院共和党が弾劾を性急に進めれば、大規模か小規模は置いたとしても、何らかの暴動が発生するのは避けがたい。そうすれば、「見ろ、トランプ支持者どもは、やはり暴徒なのだ」と民主党の人々は言うだろう。

その帰結を共和党幹部は知っているため、職務権限の剥奪や性急な弾劾裁判には応じられない。

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