トランプを生贄にする3つの敵|饗庭浩明

トランプを生贄にする3つの敵|饗庭浩明

「嵌められた。トランプはこれで生贄にされるかもしれない」――1月6日の連邦議事堂突入・占拠は何を意味しているのか。そしてアメリカ政界では何が起きて、トランプが「生贄」になったのか。トランプとは2016年の当選前より毎年会談を重ね、政権の中枢近くにも強力なコネクションを有する饗庭氏が徹底分析!


弾劾は、政治的対立を増長するだけ

そもそも、過去の例を見ても、弾劾の結論を上院が出すまでに20日から80日ほどかかっている。そのことを知りながら、「結局は暴動を起こしたトランプの仲間だ」と言い立て、中道的な人々を自分たちへと引き込もうというのが、民主党の戦略である。

そこに、「分断を克服する」とか「党派対立を乗り越える」という発言の実体を見つけることは難しい。空疎なプロパガンダ、と言うべきだろう。

良識的な保守派の共和党議員は、こうした民主党の目論見を理解している。

ケンタッキー州選出のトーマス・マシー下院議員は、ペロシによる弾劾決議案に反対票を投じたひとりだが、「弾劾を追求することは、我が国の政治的対立を不必要に増長するだけで、何ら現実的な課題に資するものではない」とコメントした。

ACUのマット・シュラップ議長は、弾劾に対するより率直な非難を私に漏らした。

「民主党はトランプ大統領に対する政治的な訴追というミスをまたもや犯した。これは、アメリカをさらなる混乱に陥らせるだけの、危険な権力乱用だ。

共和党はいまこそ一つにならなければならないし、共和党員や保守主義者を犯罪者扱いしようとする民主党の権力乱用を止めなければならないんだ」

ワシントン政治の闇

Getty logo

リズ・チェイニー

しかし、ワシントン政治の闇は、留まるところを知らない。この機会をさらに利用しようとするエスタブリッシュメントとディープ・ステートの連合が、共和党内部にも存在する。

代表例を2人あげよう。

ひとりは、トランプの弾劾に賛成した下院共和党のナンバー3、リズ・チェイニーである。ジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を務めた、ディック・チェイニーの娘だ。彼女は言う。

「アメリカ大統領が暴動をそそのかしたという事実は、間違いなく、重大な犯罪であり、過ちです。私は政治的な意図をまったく考えていません。選挙で選ばれた代表者には、政治的な意図と関係なく行動しなければならない場面があるのです」

しかし、周知のとおり、共和党の内部でもブッシュとその系譜につながる人物は、トランプと距離がある。ジョージ・W・ブッシュ自身が、トランプではなくバイデンへの支持を公言してきた。チェイニー議員自身も、しばしばトランプの外交政策を批判するなど、ブッシュの系譜にあるエスタブリッシュメントらしい行動をとってきた。

それは、ある意味では当然と言えよう。リズ・チェイニーは、トランプが「ワシントンの泥沼」として批判してきた、ディープ・ステートの既得権益を体現したような人物である。

23歳にして国務省入りし、その後に日本でも「ジャパン・ハンドラー」として知られたリチャード・アーミテージ国務副長官が代表を務めるアーミテージ・アソシエイツというコンサルティング会社に転職。父親の副大統領就任により国務省に戻って長官副補佐官などを歴任する。

オバマ政権期はもちろんワシントンから離れるものの、フォックス・ニュースなどで活躍。2017年に下院議員に初当選し、わずか2期目で共和党のナンバー3の地位である党大会議長のポストを得る、という異例の出世頭である。

「ワシントンの泥沼」を批判するトランプの影響力が後退すれば、彼女のようなグループが利益を得るのは目に見えている。だからこそ、保守系のマット・ローゼンデール下院議員は、リズ・チェイニーの弾劾賛成は「個人的利益のためだ」と批判したのである。

関連する投稿


ヨーロッパ激震!「ロシア滅亡」を呼びかけたハプスブルク家|石井英俊 

ヨーロッパ激震!「ロシア滅亡」を呼びかけたハプスブルク家|石井英俊 

ヨーロッパに君臨した屈指の名門当主が遂に声をあげた!もはや「ロシアの脱植民地化」が止まらない事態になりつつある。日本では報じられない「モスクワ植民地帝国」崩壊のシナリオ。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

とるべき財政政策とエネルギー政策を、アメリカの動きを参照しつつ検討する。自民党総裁候補者たちは「世界の潮流」を本当に理解しているのだろうか?


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


「乗っ取られた」パリ五輪開会式|上野景文(文明論考家)

「乗っ取られた」パリ五輪開会式|上野景文(文明論考家)

いろいろな意味で話題になったパリ五輪が閉幕した。 とくに国際的な話題となったのは、あの開会式だ。 「史上最悪の式典」とも言われたあの開会式の問題を改めて問い直す。


最新の投稿


【今週のサンモニ】コメの生産性向上と輸入自由化を目指せ|藤原かずえ

【今週のサンモニ】コメの生産性向上と輸入自由化を目指せ|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


日本国は宗教に冷淡|上野景文(文明論考家)

日本国は宗教に冷淡|上野景文(文明論考家)

統一教会への解散命令で、政教分離のあり方に注目が集まっている。 日本の政教分離は、世界から見てどうなのか――。


From Hope to Hostility: Conservative Party of Japan Faces Growing Backlash|Jason Morgan and Kenji Yoshida

From Hope to Hostility: Conservative Party of Japan Faces Growing Backlash|Jason Morgan and Kenji Yoshida

Political conservatives in Japan have entered into a season of re-sorting.


【我慢の限界!】トラックの荷台で隊員を運ぶ、自衛隊の時代錯誤|小笠原理恵

【我慢の限界!】トラックの荷台で隊員を運ぶ、自衛隊の時代錯誤|小笠原理恵

米軍では最も高価で大切な装備は“軍人そのもの”だ。しかし、日本はどうであろうか。訓練や災害派遣で、自衛隊員たちは未だに荷物と一緒にトラックの荷台に乗せられている――。こんなことを一体、いつまで続けるつもりなのか。


【今週のサンモニ】「過激な平和主義者」の面目躍如、日本学術問題報道|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「過激な平和主義者」の面目躍如、日本学術問題報道|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。