弾劾は、政治的対立を増長するだけ
そもそも、過去の例を見ても、弾劾の結論を上院が出すまでに20日から80日ほどかかっている。そのことを知りながら、「結局は暴動を起こしたトランプの仲間だ」と言い立て、中道的な人々を自分たちへと引き込もうというのが、民主党の戦略である。
そこに、「分断を克服する」とか「党派対立を乗り越える」という発言の実体を見つけることは難しい。空疎なプロパガンダ、と言うべきだろう。
良識的な保守派の共和党議員は、こうした民主党の目論見を理解している。
ケンタッキー州選出のトーマス・マシー下院議員は、ペロシによる弾劾決議案に反対票を投じたひとりだが、「弾劾を追求することは、我が国の政治的対立を不必要に増長するだけで、何ら現実的な課題に資するものではない」とコメントした。
ACUのマット・シュラップ議長は、弾劾に対するより率直な非難を私に漏らした。
「民主党はトランプ大統領に対する政治的な訴追というミスをまたもや犯した。これは、アメリカをさらなる混乱に陥らせるだけの、危険な権力乱用だ。
共和党はいまこそ一つにならなければならないし、共和党員や保守主義者を犯罪者扱いしようとする民主党の権力乱用を止めなければならないんだ」
ワシントン政治の闇
しかし、ワシントン政治の闇は、留まるところを知らない。この機会をさらに利用しようとするエスタブリッシュメントとディープ・ステートの連合が、共和党内部にも存在する。
代表例を2人あげよう。
ひとりは、トランプの弾劾に賛成した下院共和党のナンバー3、リズ・チェイニーである。ジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を務めた、ディック・チェイニーの娘だ。彼女は言う。
「アメリカ大統領が暴動をそそのかしたという事実は、間違いなく、重大な犯罪であり、過ちです。私は政治的な意図をまったく考えていません。選挙で選ばれた代表者には、政治的な意図と関係なく行動しなければならない場面があるのです」
しかし、周知のとおり、共和党の内部でもブッシュとその系譜につながる人物は、トランプと距離がある。ジョージ・W・ブッシュ自身が、トランプではなくバイデンへの支持を公言してきた。チェイニー議員自身も、しばしばトランプの外交政策を批判するなど、ブッシュの系譜にあるエスタブリッシュメントらしい行動をとってきた。
それは、ある意味では当然と言えよう。リズ・チェイニーは、トランプが「ワシントンの泥沼」として批判してきた、ディープ・ステートの既得権益を体現したような人物である。
23歳にして国務省入りし、その後に日本でも「ジャパン・ハンドラー」として知られたリチャード・アーミテージ国務副長官が代表を務めるアーミテージ・アソシエイツというコンサルティング会社に転職。父親の副大統領就任により国務省に戻って長官副補佐官などを歴任する。
オバマ政権期はもちろんワシントンから離れるものの、フォックス・ニュースなどで活躍。2017年に下院議員に初当選し、わずか2期目で共和党のナンバー3の地位である党大会議長のポストを得る、という異例の出世頭である。
「ワシントンの泥沼」を批判するトランプの影響力が後退すれば、彼女のようなグループが利益を得るのは目に見えている。だからこそ、保守系のマット・ローゼンデール下院議員は、リズ・チェイニーの弾劾賛成は「個人的利益のためだ」と批判したのである。