慰安婦像問題 なぜ日本は負け続けるのか|山岡鉄秀

慰安婦像問題 なぜ日本は負け続けるのか|山岡鉄秀

――なぜ、韓国のみならず、世界中に日本の慰安婦制度に関する碑や像が立ってしまうのか。大阪市が姉妹都市交流を解消したサンフランシスコ市の事例から、日本側が抱える根本的な問題に迫る――


たしかに、政府の動向を注視し、緊密な連携をとりながら事を進めていくことは重要だ。筆者自身、言論の世界では外務省の姿勢を批判しているが、実戦の現場では外務省の努力を相殺せず、いかに官民の動きを車の両輪のように回してシナジー効果をもたらすかに腐心している。

コーディネーションを考えずに民間が突進することで、かえって状況を悪くしてしまうことはあり得る。これはもちろん、自治体と政府の関係にも当てはまることだ。サンフランシスコ側が橋下前市長に強い反発を持ったことは事実だろう。しかし、それを理解したうえで、森山議員にお尋ねしたい。

橋下前市長の発言が物議を醸したのは2013年で、決議案が提出されたのは2017年と4年が経過しており、この時点でサンフランシスコ市議会は、すでに上記碑文案を全会一致で可決している。

この状況下において、森山議員は「議会としての対話の機会がある」「政府の動向を注視し政府との緊密な連携をとりながら慎重に対話を重ねていく」と言っているが、大阪自民党として具体的にどのように対話をしたのか、ぜひ聞かせていただきたい。

公開書簡の手法を批判するのであれば、それ以上に効果的な手法を実践すべきだが、具体的には何をしたのだろうか?

放置は得策ではない

ちなみに他の資料によると、大阪自民党は以下のロジックで橋下前市長と大阪市を非難し、決議案に反対した理由としている。

  • 自民党は早くから慰安婦像が建つとの情報をキャッチして、外務省と協業してサンフランシスコ市長や市議会議員と接触した。

  • 「慰安婦問題は日本と韓国との間の外交問題であり、地方自治体がかかわる問題ではないので、慰安婦像の建立には賛成しないでほしい」と説明し、大体の賛同を得ていた。

  • こうした水面下の努力を知らない橋下前市長より、サンフランシスコ市に書簡が届き、「地方自治体が外交問題に口出しすべきではない」と主張してきた従来の日本政府の対応と矛盾するということで、サンフランシスコ市側は困惑したが、市長と議長は橋下書簡を表に出さずに保留した。

  • しかし大阪市は「サンフランシスコ市が橋下市長の手紙を無視している」と問題視し、騒ぎ立てたため、自民党と外務省が水面下で行っていたロビー活動は失敗に終わり、サンフランシスコ市議会は慰安婦像建立推進へと動き始めた。

つまり、橋下前市長と大阪市の暴走により、自民党と外務省の努力が水泡に帰したという非難である。

ここでの議論のポイントのひとつに、政府の専権事項である外交問題に地方自治体が介入することの是非がある。日本政府がサンフランシスコ市議会に対して「国家間の外交マターだから、地方自治体が関与するのはやめてください」と説得している最中に、姉妹都市の大阪市が公開書簡を送りつけるのはまずいのではないか、という議論である。

サンフランシスコ市議会が先に慰安婦像建立の決議をしているのだから、大阪市には姉妹都市として「外交問題に関与するのは止めませんか? 都市間の友好関係を優先すべきではないですか?」と意見する権利はもちろんあるし、そうすべきである。ただ、タイミングが重要だから、政府とよく協議したうえで行うべきである。橋下前市長が、政府と協議したうえで行動を起こしたかには疑問が残る。

そのうえで、大阪自民にお尋ねする。橋下前市長の手紙をサンフランシスコ市長が保留した時点で、なぜ橋下前市長に水面下の努力について説明して、協力を求めなかったのか? 放置すればエスカレートするに決まっている。党が違うだけで、その程度の擦り合わせもできないのだろうか? それとも、橋下前市長に無視されたのか?

いずれにせよ、当該決議案は自民党・公明党の反対により否決された。

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