コロナウイルス対策で急速に普及したビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」は、中国生まれで米国籍を取得したエリック・ユエン氏が起業した米国企業によって開発された。しかし、1989年に中国の民主化運動が武力鎮圧された天安門事件に関するズーム利用のビデオ会議が遮断され、主催者3名のアカウントが停止された。ズーム社は中国政府からの圧力によるものだったことを認めた。
ズームの開発拠点は中国にもあり、情報を配信するサーバーの一部は中国に設置されている。そのため、ズームを利用した会議は簡単に傍受される脆弱性が指摘された。ズーム社はセキュリティー上の問題点を速やかに改善したと説明するものの、高精細な図を使ったビデオ会議などが中国に傍受されれば、企業機密も筒抜けになってしまう。
我が国も情報セキュリティーの強化や世界をリードするITソフトの開発にもっと力を入れるべきである。世界は米中の情報戦の真っただ中にある。( 2020.08.17 国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
著者略歴
国基研理事、東京工業大特任教授。1952年、東京都生まれ。東京工業大理工学研究科原子核工学修士課程修了。専門は原子炉工学。東芝に入社し原子力の安全性に関する研究に従事。同社電力・産業システム技術開発センター主幹などを務め、2007年に北海道大大学院教授に就任。同大大学院名誉教授・特任教授を経て現職。