対中抑止の最前線にある日本は、今回のコロナ危機で「中国離れ」が顕著な欧州、東南アジアを巻き込む戦略的機会を迎えている。軍事力はないが、知略を巡らして超大国を動かす時だ。かつて日本はアジア太平洋経済協力会議(APEC)を発案し、豪州に提起させて国際協調を形にした。安倍政権もまた、自由で開かれたインド太平洋戦略を考案し、ティラーソン米国務長官(当時)が推進役を買って出た。ハワイを本拠地とする米国のアジア太平洋軍はインド太平洋軍に名称変更までしている。
日本はいま、安全保障面ではインド太平洋戦略の核である日米豪印4カ国安保対話(クアッド)をベトナム、インドネシア、台湾などにも拡大し、「クアッド・プラス」を構築できる。経済面でも、環太平洋経済連携協定(TPP)を軸として米欧を説得し、「TPPプラス」として再構築することも可能だ。日本の知略を発揮できるかは安倍政権の力量と柔軟性にかかっている。(2020.06.15国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
著者略歴
産経新聞客員論説委員、国家基本問題研究所主任研究員。1948年、東京都生まれ。中央大学法学部卒、プリントン大学公共政策大学院Mid‐Career Fellow program修了。産経新聞入社後に政治部、経済部を経てワシントン特派員、外信部次長、ワシントン支局長、シンガポール支局長、特別記者・論説委員を歴任。2018年6月から現職。著書に『全体主義と闘った男 河合栄治郎』、『中国が支配する世界 パクス・シニカへの未来年表』など多数。