日本の知略で「手負いの龍」を抑え込め|湯浅博

日本の知略で「手負いの龍」を抑え込め|湯浅博

対中抑止の最前線にある日本は、今回のコロナ危機で「中国離れ」が顕著な欧州、東南アジアを巻き込む戦略的機会を迎えている。軍事力はないが、知略を巡らして超大国を動かす時だ。日本の知略を発揮できるかは安倍政権の力量と柔軟性にかかっている。


歴史家のナイル・ファーガソンは、過去のパンデミック(感染症大流行)を振り返って、未知のウイルスが社会の階級間と、民族の間にある既存の緊張を悪化させると指摘する。なるほど習近平中国国家主席は、武漢ウイルスの処理のまずさから拡散を許し、内外の批判にさらされた。そのため「手負いの龍」は、自らの弱みを見せまいと、周囲に対して凶暴さを増してくる。香港を締め付け、台湾海峡や南シナ海、東シナ海で軍事圧力を増し、インドとの国境でも中印両軍がにらみ合った。

これを封じられるのは超大国の米国しかない。だが、自由世界を率いる「白頭ワシ」も人種や貧富の格差によって国家が分断され、傷ついた羽をバタつかせている。コロナ危機に疲弊した米国社会が、白人警察官による黒人殺害事件をきっかけに、不満を爆発させたのだ。国難に遭遇した米国の強さは、大統領の下に結集する国民気質にあるはずだが、トランプ大統領の発言が米国を統合より分断に向かわせる。

西側を束ねられないトランプ氏

Getty logo

米国社会の迷走は、国際社会での指導力と求心力の劣化に直結する。中国を巨大なもうけ市場としか見なかった欧州がようやく中国拡張主義の危険性に目覚め、こじれた米欧和解の機会が到来したはずだ。コロナのパンデミックのさなかに、英仏独のハイテク企業が中国から買収攻勢を受けて、怒った欧州の「中国離れ」が加速する。

しかし、米国はこの好機を生かせない。トランプ大統領が6月に招集した主要7カ国(G7)首脳会議も、トランプ氏と反りの合わないメルケル独首相がパンデミック禍を口実に参加を辞退し、米国が意図した西側の結束を内外に見せつける計画を台無しにした。トランプ氏が「G7プラス」としてロシア、インド、オーストラリア、韓国の招請を突然表明したことに原因がある。ジョンソン英首相やトルドー加首相も、クリミア半島併合を強行したロシアの首脳会議復帰を拒否した。さすがのトランプ氏も、9月まで「G7プラス」を先延ばしせざるを得なくなった。

安倍首相に政略的好機

関連する投稿


衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

「石破首相は総裁選やこれまで言ってきたことを翻した」と批判する声もあるなか、本日9日に衆院が解散された。自民党は総選挙で何を訴えるべきなのか。「アベノミクス」の完成こそが経済発展への正しい道である――。


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


たちまち5刷!『マンガ安倍晋三物語』制作秘話|TEAM ABE(チーム安倍)

たちまち5刷!『マンガ安倍晋三物語』制作秘話|TEAM ABE(チーム安倍)

昭恵夫人が「号泣しました。生涯最高の一冊です」と大絶賛。全国から感動、感涙の声が続々。安倍晋三総理の67年の生涯を描いた『マンガ安倍晋三物語』の制作秘話を未公開イラストと共に初公開!


アメリカは強い日本を望んでいるのか? 弱い日本を望んでいるのか?|山岡鉄秀

アメリカは強い日本を望んでいるのか? 弱い日本を望んでいるのか?|山岡鉄秀

副大統領候補に正式に指名されたJ.D.ヴァンスは共和党大会でのスピーチで「同盟国のタダ乗りは許さない」と宣言した。かつてトランプが日本は日米安保条約にタダ乗りしていると声を荒げたことを彷彿とさせる。明らかにトランプもヴァンスも日米安保条約の本質を理解していない。日米安保条約の目的はジョン・フォスター・ダレスが述べたように、戦後占領下における米軍の駐留と特権を日本独立後も永続化させることにあった――。


トランプ前大統領暗殺未遂と政治家の命を軽視する日本のマスメディア|和田政宗

トランプ前大統領暗殺未遂と政治家の命を軽視する日本のマスメディア|和田政宗

7月13日、トランプ前大統領の暗殺未遂事件が起きた。一昨年の安倍晋三元総理暗殺事件のときもそうだったが、政治家の命を軽視するような発言が日本社会において相次いでいる――。


最新の投稿


【今週のサンモニ】サンモニ名物コメンテーターの差別発言|藤原かずえ

【今週のサンモニ】サンモニ名物コメンテーターの差別発言|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「情報軽視」という日本の宿痾をどう乗り越えるのか 松本修『あるスパイの告白――情報戦士かく戦えり』(東洋出版)

【読書亡羊】「情報軽視」という日本の宿痾をどう乗り越えるのか 松本修『あるスパイの告白――情報戦士かく戦えり』(東洋出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】口だけの核廃絶は絶望的なお花畑|藤原かずえ

【今週のサンモニ】口だけの核廃絶は絶望的なお花畑|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

「石破首相は総裁選やこれまで言ってきたことを翻した」と批判する声もあるなか、本日9日に衆院が解散された。自民党は総選挙で何を訴えるべきなのか。「アベノミクス」の完成こそが経済発展への正しい道である――。


【今週のサンモニ】偽善と悪意に溢れたコメント連発|藤原かずえ

【今週のサンモニ】偽善と悪意に溢れたコメント連発|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。