現在、日本では憲法改正議論が進んでいる。そのなかで、自民党は自衛隊の明記、教育の充実などとともに「緊急事態条項」の創設も提起している。
安倍首相は5月3日、自民党総裁として「憲法フォーラム」で公開されたビデオメッセージでこう述べている。 「今回のような未曾有の危機を経験したいま、緊急事態において国民の命や安全を何としても守るため、国家や国民がどのような役割を果たし、国難を乗りこえていくべきか、そしてそのことを憲法にどのように位置づけるかについては、きわめて重く、大切な課題である、と私自身改めて認識した次第だ」
自民党案では「大地震その他の異常かつ大規模な災害により……」となっており、今回のような疫病は想定されていない。だから、現行の自民党案についても議論が必要だ。
しかし、安倍総裁が述べたように、緊急事態での国家や国民の役割について憲法に明記する必要があることは明白だし、多くの国民もそれを認めている。
毎日新聞が4月18、19日に実施し、5月3日付朝刊に掲載した全国世論調査では、緊急事態条項を創設する自民党案について「賛成」が45%だったのに対し、「反対」は14%に留まっている。「わからない」が34%だった。賛成、反対だけを比べれば、圧倒的に賛成する国民が多いのが実態だ。それが新型コロナ感染症から学んだ日本人の判断なのだ。
日本人は戦後、阪神大震災、東日本大震災、相次ぐ台風など多くの人命が失われる事態に直面した。一方で、「限定された地域での災害」との認識が拭えなかったのも事実だ。
新型コロナ感染症を経験して、日本人は命と生活を守るための「緊急事態条項」の重要性を認識したはずだ。感染症だけでなく、災害、武力侵攻など、日本人の生命を守るための条文を憲法に明記し、政府の責務を明確化すべきだ。 (初出:月刊『Hanada』2020年7月号)
著者略歴
ジャーナリスト。1960年生まれ。日本大学卒業。業界紙記者などを経て、現在はフリーライター。企業物などを得意としている。