緊急時・非常時と憲法の関係を考えるべき
たしかに、事態が切迫している場合は、そのような手法も必要だろう。しかしいまや、新型コロナは政府と自治体の対応、国民の協力が功を奏して収束に向かっているのだ。日本国民誰もが、緊急時の政府や自治体の役割や、国民の責務に思いを寄せたいまだからこそ、枝野氏のように後ろ向きではなく、緊急時・非常時と憲法の関係を考えるべきなのだ。
そもそも、国民の権利を限定的、一時期にせよ制約する措置、それがたとえ国会による立法を伴うにせよ、憲法の規定なしに行うことは不適切だ。枝野氏の“得意”な立憲主義は、権力者の恣意ではなく、法に従って権力が行使されるべきという政治原則だが、だからこそ、憲法に国家緊急権の規定を明確に置き、その憲法の規定の下に有事に関する立法をすべきなのだ。
ドイツ憲法とフランス憲法
「憲法」と一口で言っても、各国の事情によりその内容は大きく異なっている。内容だけでない。改憲に対する姿勢も国によって大きく異なる。
たとえば、ドイツの憲法である基本法はこれまで60回以上改正されている。改正手続きの容易さもあるが、戦後一度も改正していない日本とは大きな違いだ。
そのドイツの憲法は、非常事態に関する詳細な規定を設けているのが特徴だ。非常事態については、天災、暴動などの「内部的緊急事態」に関する規定(第91条)と、外国からの攻撃を受けた場合の「防衛事態」に関する規定(第115条a~l)が設けられている。
特に「防衛事態」に関しては、連邦の立法権の拡張や緊急立法、連邦議会の集会が不可能な場合の合同委員会など、連邦政府の非常権限について詳細な規定を設けている。
また、フランス憲法でも第16条で規定しており、憲法上の公権力の運営が阻害されるような非常時には、ほぼすべての国家権力の行使が可能となる。