その一例として、人民解放軍の外国語学校の卒業生が、長年にわたって日本で貿易会社を隠れ蓑として運営しているケースがある。
彼は日本国内で、人民解放軍の幹部学校出身者で構成される広範なネットワークに所属しており、中国共産党の海外工作機関と秘密裏に連絡をとりあっている。彼は徐々に、影響力をもつビジネスマンや保守的な政治家たちとのコネづくりを進めており、ビジネスマンや芸術家、ジャーナリスト、そして役人などを中国に訪問させて「中国の友」となるように育てるのだ。
すると彼らは次第に「中国の視点」から世界を見るようになり、日本に帰国すると公私にわたって「両国は密接な関係をつくるべきであり、北京を怒らせるようなことは何であっても日本の利益にならない」と主張しはじめる。
この二国の長く困難な歴史的な関係において、北京は日本のリーダーたちと友好関係を求めつつも、憎悪に満ちた反日ナショナリズムの突発的な盛り上がりを認可するような矛盾に陥ることが多い。
中国国民の間で反日憎悪を維持することは、中国共産党にとって政治的にも大きな価値がある。なぜなら、党の正統性は排他的な愛国主義の感情を扇動して利用できるかどうかに大きくかかっているからだ。国家的な屈辱の感情を維持できる限り、中国共産党は自分たちを「中国の人民の尊厳を守るための担い手」と見せかけることができる。
ただし中国共産党は、当然ながら中国人民の尊厳と権利を毎日踏みにじっており、しかも最も残酷な形で行っていることも多い。新疆ウイグル自治区におけるウイグル人やその他のテュルク系を収容する広大な強制収容所はその典型的な例だ。
それでも中国共産党は自らを省みることなく、西洋の社会正義に対する真摯(しんし)な意識を利用することで、中国人自身に対して行われた歴史的な蛮行を冷酷に利用してきた。これは「中国」への同情を獲得するため、そして日本の外交努力を阻害するために実行されたのだ。
西側の多くの政治家や、善意を持った白人の活動家たちはみすみすこのワナにかかってしまい、自分たちは自国で中国系市民との連帯感を示すために活動していると信じ込んでしまっている。
共産党はトランプ再選を望んでいる
北京は西側諸国の間を仲違いさせるように積極的に活動している。だからこそドナルド・トランプ大統領の孤立主義と同盟国との仲違いは、貿易戦争にも関わらず、中国共産党の野望にとって、またとないチャンスとなっているのだ。
北京の共産党の戦略家たちは、2020年後半にトランプ大統領が再選されることを望んでいるはずであり、その選挙運動を隠れて支援しているものと思われる。アメリカ大統領も同じように中国側からの工作をはねのけようとしている。したがって北京にとって最大の脅威は、アメリカで思慮深い戦略的なアプローチを採用した人物となる。
ただし本稿が書かれている時点では、習近平の頭を最も悩ませているのは新型コロナウイルスだ。
ヨーロッパはアメリカという偉大な同盟国から関係を突き放されたと感じており、その同盟相手を中国にシフトさせる危機に直面している。イギリスはすでにその方向で動いており、これは世界における民主制度や人権にとって大きな危機となるだろう。
われわれは非常に大きな力を持った、世界覇権国になろうと決意している専制国家に直面している。
あなたにアメリカが世界で果たしている役割について何らかの批判があるとしても(そしてそのうちの多くは実際に深刻なものだが)、習近平率いる中国は、自由を信奉する人々にとって、はるかに悪い選択肢となるはずだ。
2020年2月 クライブ・ハミルトン