静かに進行し続ける中国の侵略計画/『目に見えぬ侵略』日本語版前書き

静かに進行し続ける中国の侵略計画/『目に見えぬ侵略』日本語版前書き

原著『Silent Invasion』は大手出版社Aleen&Unwinと出版契約を結んでいたが刊行中止、その後も2社から断られ、「(本書の)販売中止を決めた自粛は自己検閲だ」(フィナンシャル・タイムズ)と物議をかもした。中国共産党の海外工作ネットワークをすべて実名入りで解明した執念の本格研究、ついに全訳完成! 著者クライブ・ハミルトン氏の日本語版前書きを『Hanada』プラスで特別公開!


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中国との貿易協定は日本にとって「毒杯」

北京の世界戦略における第一の狙いは、アメリカの持つ同盟関係の解体である。その意味において、日本とオーストラリアは、インド太平洋地域における最高のターゲットとなる。北京は日本をアメリカから引き離すためにあらゆる手段を使っている。

北京は、日米同盟を決定的に弱体化させなければ日本を支配できないことをよく知っている。主に中国が使っている最大の武器は、貿易と投資だ。北京は「エコノミック・ステイトクラフト」(経済的国政術)というよりもむしろ「エコノミック・ブラックメール」(経済的脅迫)の使い手であり、中国と他国の経済依存状態を使って、政治面での譲歩を迫っているのだ。すでに日本には北京の機嫌を損なわないようにすることが唯一の目的となっている。

財界の強力な権益が存在する。中国共産党率いる中国との貿易と投資に関する協定が日本にとって「毒杯」となりうる理由は、まさにここにある。

北京は、増加する中国人観光客や海外の大学に留学している中国人学生たちを通じた人的な交流さえも「武器」として使っており、中国に依存した旅行会社や大学を、自分たちのために働くロビー団体にしている。貿易や投資の他にも、中国は海外での政治的な影響力を獲得するために技術面での依存関係を利用している。

だからこそ北京は、世界の国々でファーウェイに5Gネットワークを構築させようしているのだ。ファーウェイがサイバー空間を通じたスパイ活動に使われていることを示唆するケースは世界中で報告されている。しかし、西側諸国の戦略担当者たちは、いざ紛争になったときに、北京がファーウェイの機器を使って通信ネットワーク――当然ながら交通、電気、そして銀行などのネットワークも含む――を遮断して相手に障害を与える可能性の方を心配している。

たしかにこれは単なる可能性の話ではなく、武力紛争が近くなれば、ほぼ確実に起こるものとみられている。習近平国家主席の「軍民融合」を推進する計画には、中国の民間企業を人民解放軍の軍事的シナリオ構想に組み入れることも確実に含まれている。

日本では、数千人にものぼる中国共産党のエージェントが活動している。彼らはスパイ活動や影響工作、そして統一戦線活動に従事しており、日本の政府機関の独立性を損ね、北京が地域を支配するために行っている工作に対抗する力を弱めようとしているのだ。

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「中国の友」となるよう育てることで侵略する

その一例として、人民解放軍の外国語学校の卒業生が、長年にわたって日本で貿易会社を隠れ蓑として運営しているケースがある。

彼は日本国内で、人民解放軍の幹部学校出身者で構成される広範なネットワークに所属しており、中国共産党の海外工作機関と秘密裏に連絡をとりあっている。彼は徐々に、影響力をもつビジネスマンや保守的な政治家たちとのコネづくりを進めており、ビジネスマンや芸術家、ジャーナリスト、そして役人などを中国に訪問させて「中国の友」となるように育てるのだ。

すると彼らは次第に「中国の視点」から世界を見るようになり、日本に帰国すると公私にわたって「両国は密接な関係をつくるべきであり、北京を怒らせるようなことは何であっても日本の利益にならない」と主張しはじめる。

この二国の長く困難な歴史的な関係において、北京は日本のリーダーたちと友好関係を求めつつも、憎悪に満ちた反日ナショナリズムの突発的な盛り上がりを認可するような矛盾に陥ることが多い。

中国国民の間で反日憎悪を維持することは、中国共産党にとって政治的にも大きな価値がある。なぜなら、党の正統性は排他的な愛国主義の感情を扇動して利用できるかどうかに大きくかかっているからだ。国家的な屈辱の感情を維持できる限り、中国共産党は自分たちを「中国の人民の尊厳を守るための担い手」と見せかけることができる。

ただし中国共産党は、当然ながら中国人民の尊厳と権利を毎日踏みにじっており、しかも最も残酷な形で行っていることも多い。新疆ウイグル自治区におけるウイグル人やその他のテュルク系を収容する広大な強制収容所はその典型的な例だ。

それでも中国共産党は自らを省みることなく、西洋の社会正義に対する真摯(しんし)な意識を利用することで、中国人自身に対して行われた歴史的な蛮行を冷酷に利用してきた。これは「中国」への同情を獲得するため、そして日本の外交努力を阻害するために実行されたのだ。

西側の多くの政治家や、善意を持った白人の活動家たちはみすみすこのワナにかかってしまい、自分たちは自国で中国系市民との連帯感を示すために活動していると信じ込んでしまっている。

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共産党はトランプ再選を望んでいる

北京は西側諸国の間を仲違いさせるように積極的に活動している。だからこそドナルド・トランプ大統領の孤立主義と同盟国との仲違いは、貿易戦争にも関わらず、中国共産党の野望にとって、またとないチャンスとなっているのだ。

北京の共産党の戦略家たちは、2020年後半にトランプ大統領が再選されることを望んでいるはずであり、その選挙運動を隠れて支援しているものと思われる。アメリカ大統領も同じように中国側からの工作をはねのけようとしている。したがって北京にとって最大の脅威は、アメリカで思慮深い戦略的なアプローチを採用した人物となる。

ただし本稿が書かれている時点では、習近平の頭を最も悩ませているのは新型コロナウイルスだ。

ヨーロッパはアメリカという偉大な同盟国から関係を突き放されたと感じており、その同盟相手を中国にシフトさせる危機に直面している。イギリスはすでにその方向で動いており、これは世界における民主制度や人権にとって大きな危機となるだろう。

われわれは非常に大きな力を持った、世界覇権国になろうと決意している専制国家に直面している。

あなたにアメリカが世界で果たしている役割について何らかの批判があるとしても(そしてそのうちの多くは実際に深刻なものだが)、習近平率いる中国は、自由を信奉する人々にとって、はるかに悪い選択肢となるはずだ。


2020年2月  クライブ・ハミルトン

目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画

クライブ・ハミルトン

https://hanada-plus.jp/articles/371

オーストラリアの作家・批評家。著作には『成長への固執』(Growth Fetish)、『反論への抑圧』(Silencing Dissent:サラ・マディソンとの共著)、そして『我々は何を求めているのか:オーストラリアにおけるデモの歴史』(What Do We Want: The Story of Protest in Australia)などがある。14年間にわたって自身の創設したオーストラリア研究所の所長を務め、過去数年にわたってキャンベラのチャールズ・スタート大学で公共倫理学部の教授を務めている。

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