中国との貿易協定は日本にとって「毒杯」
北京の世界戦略における第一の狙いは、アメリカの持つ同盟関係の解体である。その意味において、日本とオーストラリアは、インド太平洋地域における最高のターゲットとなる。北京は日本をアメリカから引き離すためにあらゆる手段を使っている。
北京は、日米同盟を決定的に弱体化させなければ日本を支配できないことをよく知っている。主に中国が使っている最大の武器は、貿易と投資だ。北京は「エコノミック・ステイトクラフト」(経済的国政術)というよりもむしろ「エコノミック・ブラックメール」(経済的脅迫)の使い手であり、中国と他国の経済依存状態を使って、政治面での譲歩を迫っているのだ。すでに日本には北京の機嫌を損なわないようにすることが唯一の目的となっている。
財界の強力な権益が存在する。中国共産党率いる中国との貿易と投資に関する協定が日本にとって「毒杯」となりうる理由は、まさにここにある。
北京は、増加する中国人観光客や海外の大学に留学している中国人学生たちを通じた人的な交流さえも「武器」として使っており、中国に依存した旅行会社や大学を、自分たちのために働くロビー団体にしている。貿易や投資の他にも、中国は海外での政治的な影響力を獲得するために技術面での依存関係を利用している。
だからこそ北京は、世界の国々でファーウェイに5Gネットワークを構築させようしているのだ。ファーウェイがサイバー空間を通じたスパイ活動に使われていることを示唆するケースは世界中で報告されている。しかし、西側諸国の戦略担当者たちは、いざ紛争になったときに、北京がファーウェイの機器を使って通信ネットワーク――当然ながら交通、電気、そして銀行などのネットワークも含む――を遮断して相手に障害を与える可能性の方を心配している。
たしかにこれは単なる可能性の話ではなく、武力紛争が近くなれば、ほぼ確実に起こるものとみられている。習近平国家主席の「軍民融合」を推進する計画には、中国の民間企業を人民解放軍の軍事的シナリオ構想に組み入れることも確実に含まれている。
日本では、数千人にものぼる中国共産党のエージェントが活動している。彼らはスパイ活動や影響工作、そして統一戦線活動に従事しており、日本の政府機関の独立性を損ね、北京が地域を支配するために行っている工作に対抗する力を弱めようとしているのだ。