また一方では、反共姿勢の強い胡適と張彭春を「五四精神」の代表者に仕立て、現在の中国の言論統制の犠牲者となった李文亮医師や、自由と民主を求めて弾圧されている最中の許章潤教授、許志永氏の名前を持ち出すことによって、「五四精神」にとっての敵、すなわち米中両国人民が共有すべき普遍的な価値観にとっての敵が一体誰であるかを示唆した。
そう、胡適や張彭春などの中国近代を代表する知識人を外国亡命に追いやったのも、真実を発信した李文亮の口を封じ込めたのも、許章潤教授や許志永氏のような良心的な知識人に弾圧を加えているのも、中国共産党政権である。
この共産党政権こそが一貫して「五四精神」の敵であり、中国における自由と民主の敵であり、そして米中両国人民の共通の敵なのだ、とポッティンジャー氏は言いたかったのであろう。そうすると、ポッティンジャー氏が演説の最後に「民主主義の理念がはたして中国で実現されていくのだろうか」との質問を中国人民に投げかけたうえで、「中国人民の答えを待っている」と語ったことの意味も自ずと分かってくる。
彼は明らかに、中国人民が自らの手で中国共産党の暴政に終止符を打ち、民主と自由の理念を中国で実現させることを期待して、アメリカ政府を代表してそれを呼びかけているのである。
かつて一中国人青年として中国の民主主義実現のために奮闘した筆者は、ポッティンジャー演説のこの大事なメッセージを心のなかで受け止めた時、久しぶりの血が湧くような興奮を覚え、そして深い感慨に浸った。
中国は繁栄するほど独裁に
いまから31年前、私たちが「五四精神」の継承者だと自任して、中国の民主化を内部から求める運動を起こした。しかし、私たちの運動は共産党政権の血の鎮圧によって押し潰された。
そしていま、アメリカ政府の高官が再び「五四精神」の旗印を掲げて、外の世界から中国人民に民主主義実現を促した。この意味はあまりにも重大ではないだろうか。
1989年の天安門事件以来、アメリカと西側先進国は、中国に対して一つの”ずる賢い”戦略を進めてきた。
中国国内の民主化欲求や民主化運動・人権運動に対して、基本的に無関心を装い、不関与の姿勢を貫いた。その半面、反民主・反自由の中国共産党政権と連携して、中国との経済的結びつきを強めてきた。中国との経済的交流を強めたいアメリカや西側のエリートたちの言い分はこうである。
「交流を強めて中国の発展と繁栄を促していけば、いずれ中国全体が西側の価値観を受け入れて、穏やかな民主主義国家に変身していくのではないか」
これは多くのアメリカ人や西洋人にとって単なる口実ではなく、本当にそう考えていたのだろう。彼らは、中国がそうなることを真剣に期待していたのである。
しかし、天安門事件以来の歴史は、このような期待が全くの無理筋であったことを証明してくれた。
中国が発展と繁栄に伴って、穏やかな民主主義国家へ変身していく気配は全くない。中国が発展すればするほど、繁栄すればするほど、中国共産党政権はますます独裁体制を固め、ますます横暴になり、侵略的になって、西側の価値観と対抗する道へと走っていったのである。特に習近平政権になってからは、この傾向はますます強まってきている。
幸い、西側諸国のなかでは多くのエリートがようやく中国の異質性と危険性を再認識して、中国への甘い幻想を捨て始めた。特にアメリカはトランプ政権になってから、それまでの間違った対中国戦略を根本的に見直し、中国共産党政権が「善人」になることを期待するのではなく、その拡張戦略を封じ込めていくことにしたのである。
こうしたなかで、2020年2月から始まった武漢発の新型肺炎の世界的蔓延は、より強烈な形で国際社会に、とりわけ被害の酷いアメリカに中国共産党政権の危険性を印象づけることとなった。
武漢で肺炎が発生した初期段階で中国共産党政権が行った悪質な情報隠蔽は、結局、新型コロナウイルスを世界中に拡散させ、大惨禍を引き起こした最大の元凶であることは周知の事実。これによって、中国共産党の一党独裁体制が、中国人民だけでなく世界・地球全体にとっての災いの元であること、この極悪の独裁体制を潰して中国の民主化を推し進めていくことは、中国人民にとっての課題ではなく世界共通の課題となっていることが端的に示されたと言える。
ポッティンジャー演説は、まさにトランプ政権における対中国戦略の歴史的な大転換を意味するものであろう。つまりトランプ政権は、地球のガンと言える中国共産党政権を潰すため、外から圧力を加えると同時に、中国内部からの革命、中共政権内部からの崩壊を期待して、そのために檄を飛ばしたのだ。
「打倒中共」の号砲が世界最強の民主主義国家から鳴らされた。歴史はいま、確実に動いている。