それでも犯罪者扱いする日本政府
冷戦時代、米国とソ連の間で拘束した相手側の諜報要員を同時に釈放する「スパイ交換」が行われていた。日本人が中国でスパイ容疑をかけられて拘束されたなら、日本政府はすぐに国内で活動する同じ数の中国工作員を拘束し、交換交渉を始めるべきだが、日本政府にそういうことを実施する気配は全くみられない。
筆者が北京に駐在していたとき、中国にスパイとして拘束された日本人の家族や周辺者の取材をしたことがあるが、複数の関係者から「冤罪なのに、外務省と大使館はなにもしてくれない」と言われたことがあった。
日本人の拘束が判明するたびに、菅官房長官は「(日本政府は)できるだけの支援をしている」と記者会見で述べているが、北京の大使館関係者によると、菅氏が言う支援は釈放に向ける外交努力ではなく、あくまでも本人の要望にしたがって弁護士を斡旋したり、漫画やカップラーメンを差し入れしたりするなど、いわば詐欺や傷害容疑などの一般刑事犯と同じ人道的な支援だ。日本政府も、彼らを“犯罪者扱い”しているという。
抗議も釈放要求も一切しない
北朝鮮による日本人拉致問題に長年、取り組んできた松原仁衆議院議員は2019年2月27日の衆議院予算委員会の分科会で、中国による邦人拘束問題を取り上げ、政府の見解を問いただした。
衆議院同分科会の議事録によれば、松原氏の「政府はなぜ邦人拘束という事実を公表しなかったのか」との質問に対し、外務省の垂秀夫領事局長(当時)は「政府としては、ご家族への配慮、人定事項を含めたなんらかの確認や公表を行うことにより、当該邦人および同様に拘束されている他の邦人に対する中国当局の今後の中国側司法プロセスにおける取り扱いなどにおいて、不利益な影響を生じさせる可能性が排除できなかったことから、対外公表をすることは差し控えたものでございます」と答弁した。
松原氏はさらに、「日本政府は中国に対し抗議、または釈放要求をした事実はあるか」と質問したのに対し、垂氏は「日中首脳会談、日中外相会談を含めてあらゆるレベルを通じ、厳正に申し入れ、前向きな対応を求めているところでございます」と回答した。
垂氏の答弁から、日本政府はこれまでに中国と外交交渉で、邦人拘束の件について「前向きの対応」を求めただけで、抗議したことも、釈放要求もしたことがないことが明らかになった。