横行する「日本人スパイ狩り」習近平の「人質外交」 と北大教授帰国の真相|矢板明夫

横行する「日本人スパイ狩り」習近平の「人質外交」 と北大教授帰国の真相|矢板明夫

2019年11月、中国に拘束されていた北海道大学岩谷教授が突如保釈された。これは実は日本外交の小さな勝利だった――。一方で、いまだ不当に拘束されている日本人“救出”は遅々として進んでいない。中国による邦人拘束をひた隠しにする外務省と日本政府の及び腰の姿勢……このままでは日本は世界の笑いものになる!今こそ日本政府は習近平の「人質外交」に毅然と対峙せよ。


外務省や日本政府の邦人を守る姿勢は、国際社会の基準からみれば明らかに不十分だ。日本と同じく、中国に複数の自国民を拘束されたカナダ政府は中国に対して毅然とした態度を取り、国際社会の協力を積極的に求めている。   

2018年12月、カナダは中国の大手IT企業、華為技術(ファーウェイ)創業者の長女で同社副会長の孟晩舟氏を拘束した。孟氏は米国の対イラン制裁回避に関連する不正行為の疑いがあったとして、米政府の要請を受けたカナダが孟氏の拘束に踏み切った。   

これに対して、中国の外務省はすぐさま反応し、米国とカナダに猛抗議、釈放要求を繰り返した。中国外務省の王毅外相は全国人民代表大会中の3月8日、記者会見して華為事件に言及し、孟氏の拘束事件とその後に起きた一連の華為排除の動きについて、「意図的な政治的抑圧であり、われわれは中国企業と市民の合法的権益を断固守る」と強調した。

中国の激しい報復、カナダ人を次々に拘束

この事件の背景には米中のハイテク分野の主権権争いも絡んでいるが、ある意味で、中国にとっては「外国に拘束された自国民を保護する事案」でもある。その後、中国当局の激しい報復行為は国際社会を驚かせた。  

孟氏拘束後、中国はすぐに中国国内にいる2人のカナダ人を「国家安全に危険を与えた」などの容疑で拘束。その後も次々とカナダ人を拘束し、中国の地方都市の英語学校で教える若い女性を含めて、わずか2カ月で計13人のカナダ人を拘束した。その後、5人を釈放したが、残り8人はスパイ容疑で取り調べを続けた。  

中国当局による一連のカナダ人拘束は、カナダ政府に対し、孟晩舟氏の身柄を米国側に渡さないように牽制するためと言われている。

屈しなかったカナダ

しかし、カナダは中国に屈しなかった。当初、カナダ人2人の拘束が判明すると、フリーランド外相はすぐに「中国によるカナダ人の恣意的拘束を深く懸念している」との声明を出し、即刻釈放を求めた。   

その後、ほかにも複数のカナダ人が中国に拘束されていることが次々とわかり、同外相はさらに「中国側がカナダ国民に対して取った行動は、すべての国にとっての脅威だ」との声明を発表し、厳しい言葉で中国を非難した。   

北京の駐中国カナダ大使も拘束者と面会するなど、国民を守る決意を表明した。中国に拘束された自国民の救出はいま、カナダ政府の最も重要な外交課題の一つになっている。  

こうした中国に対するカナダ政府の強い態度は、複数の国、国際組織、人権団体の支持を受けており、拘束カナダ人を支援する輪は、すでに国際社会で広がっている。

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