加えて、山本は所得税の最高税率の引き上げも主張しており、法人税の累進制化などと合わせて29兆円の財源が捻出できると「試算している人がいる」と訴えています。
昨年12月4日の日本記者クラブ主催の記者会見では、「これ以上精緻な計算をするということなら、財務省にしてもらうしかない。正しい数字を出させるためには政権を取る以外にない。とにかく、ないところから取るな、あるところから取れということだ」と語っています。要は、明確な根拠に基づいてはじき出した金額ではないということです。
「29兆円」とは、一体だれが試算しているのでしょうか。税理士で立正大学法学部の浦野広明客員教授は昨年1月14日付の全国商工新聞で、「申告所得税の累進化で約10兆円、法人税の累進化と大企業優遇税制の是正で約19兆円(菅隆徳税理士試算)、合わせて約29兆円の財源が生まれます。不公平な税制をただせば、消費税に頼らなくても財政は成り立ちます」と主張しています。
浦野教授は「しんぶん赤旗」にしばしば登場し、昨年2月26日に行われた衆院予算委員会の中央公聴会には共産党推薦の公述人として出席し、消費税増税反対を訴えています。
菅税理士も、全国商工新聞と「しんぶん赤旗」に登場したことがあります。全国商工新聞は、共産党と深い仲にある全国商工団体連合会(全商連)が発行している新聞です。どうにも共産党の影がちらつきます。
山本の経済政策は、いま流行りのMMT(モダン・マネタリー・セオリー)と呼ばれる現代貨幣理論をベースにしていることがうかがえます。独自の通貨をもつ国は、インフレが起きない限り国債を発行し続けることができるという経済理論で、要は国の借金を気にしないで財政出動をしても、国家は破綻しないという考え方です。
財源はいくらでもあるかのようなこの考え方に基づき、山本は奨学金徳政令や最低賃金1500円、1人あたり3万円の現金給付などの政策を掲げています。奨学金徳政令などからは、氷河期世代をターゲットにしていることがわかります。
山本は新規国債の発行を「インフレ目標2%に到達するまで」としています。現金給付も「インフレ率2%に到達した際には終了」と主張。それでは、どういった試算に基づいて2%という数字をはじき出しているのでしょうか。
昨年8月7日に東京都内で行った日本ジャーナリスト協会主催の記者会見で、インフレ目標2%についてこんなことを言っています。
「私は2%である必要は必ずしもないと思っています。国の実態を見て、それが3%になるのか、4%になるのかは、その国の実態を見ながらの判断だと思っています。ただ、いま日銀と国が『2%』ということを言っているので、『じゃあとりあえず2%でもいいよ』という話なんです」
つまり、2%というのは腰だめの数字というわけです。
日本はインフレが起きにくい状況にあります。それをいいことに、新規国債で借金まみれになって本当に問題ないのでしょうか。
2%に達したらバラマキはやめざるを得なくなるわけで、国民の間に不公平が生じるのは確実です。
MMTをベースとしたとみられる「反緊縮」という経済政策をめぐっては、左派系の論陣からさえ異論が出ています。
たとえば、同志社大大学院の浜矩子教授は週刊誌『サンデー毎日』(2019年9月22日号)でのインタビュー記事で、「山本太郎さんも安倍首相も、私から見たら同じ穴のむじなです」としたうえで、「『緊縮財政の必要性など一切考慮せずに大盤振る舞いの財政支出を展開する。そのことによって国家主導の経済体制を構築する』という国威発揚型の国家観に根差している」と分析しています。
さらには、「ムソリーニやヒトラーが軍事目的と失業対策を兼ねて高速道路を整備した歴史を彷彿させます」とまで語り、嫌悪感をあらわにしています。こうした左派陣営からの異論が、山本の政治思想をより分かりにくくしています。
よく理解せずに、「増税しないで財政支出を増やす」という甘い蜜に飛びつく有権者は多いはずです。それが山本人気につながっているのは間違いありません。甘い蜜には罠がある。この言葉をいま一度、胸に刻み込む必要があります。
親の面倒は見なくていい?
次に、生活保護についてです。消費税率が8%から10%に引き上げられた昨年10月1日に、JR新宿駅西口前で行った街頭演説で山本はこう語っていました。
「(自民党の)片山さつきさん、あおられていましたよね。芸人のお母さんが生活保護を受給されていた。何か問題あるんですか。芸人の息子が金儲けしていて、お母さんが生活保護を受ける状態にある。これにみんなが噛みついた。親の面倒ぐらいみろよ。なんだ、その呪いの言葉ってことなんですよ」
「家族だから面倒見なければならない? 夫婦だから何とかしなければならない? 同じ地域だからどうにかしなければならない? 共助とか自助とか、そういうものに頼りきるような政治に、どうして税金を取られなければならないんだ」
しかし、生活保護は最後の最後に頼るべきものです。親族から援助が受けられるのなら受けたうえで、それでも最低限の生活が成り立たない場合に生活保護費を受給するのが原則です。このため、生活保護の申請があった場合、全国に設置されている福祉事務所は、資産の有無や親族からの援助を受けているのかなどを徹底的に調べます。そうしなければ国民の理解は得られません。財源は税金ですから。
山本が挙げた事例に関し、母親が生活保護を受け始めたとき、息子は芸人として売れておらず、援助する余裕がなかったとされています。その後、この芸人は売れるようになったため、親に援助するのが筋ではないかという世論の声が沸き起こり、世間の耳目を集めたわけです。
いくつか異議を唱えたいと思います。まずは、「親の面倒くらいみろよ」が「呪いの言葉」と言っている点です。これは、山本の家族観を反映したものでしょう。
もちろん、親の面倒をみる余裕がない人は、この世の中に多数います。特に氷河期世代には、不安定な雇用を余儀なくされた人が多く存在し、この人たちにとっては自分自身の生活すら厳しいのが現実です。
しかし、「呪いの言葉」は言い過ぎです。子供が親の面倒を見なくて何が家族でしょうか。
社会を構成する基本的単位である家族の崩壊、家族の否定に直結しかねないこの考え方は、無秩序の社会を生み出しかねない点で危険としか言いようがありません。